2017.09.06
ストリーミングによるネット配信の興盛で、個人発のドキュメンタリー映画が増えている。
さて、ここで重要なのが、自分の子どもに向けてグリーソン一家が撮り続けた映像素材を、彼ら家族とは何ら関係のない多くの観客に訴えかけるように編集したドキュメンタリー作家、クレイ・トゥイールの手腕だろう。
ドキュメンタリー映画というと、撮影隊が被写体となる人物や共同体の生活や人生を、数か月から数年に及んでじっくりと追い続け、そこから独自の人生観を浮かび上がらせるというアプローチをとった作品を思い浮かべる人も多い。
だが、本作がそうであるように、作り手が被写体とさほど接触することなく作られるドキュメンタリー映画も増えてきている。というのも、生まれた時から家庭用ホームビデオで撮られ続けるのが当たり前の世代が台頭し、個人が十二分、自分史を語れるほどの映像記録を持っている、というのが当たり前の時代になってきたからだ。例えば日本の砂田麻美監督の2011年のドキュメンタリー映画『エンディングノート』では、がん宣告を受けた父親の終活を追ったものだが、彼女が10代の時、こっそり隠し撮った両親の夫婦喧嘩の様子をうかがう映像が挟み込まれていて、家族の時間の流れに大きな意味を持たせている。また、この夏に公開され、日本でも大ヒットとなったバレエダンサー、セルゲイ・ポーリンの半生を追った『ダンサー、セルゲイ・ポーリン 世界一優雅な野獣』も少年期からのバレエシーンがふんだんに使われている。
その意味で、家族が撮り貯めたフッテージから「どう人生を切り取って、どう編集するか」の才に恵まれた新手のドキュメンタリー作家が生まれてきているのだ。
クレイがグリーソンから渡されたビデオダイアリーは1500時間分もあったというが、闘病生活を時系列ごとに語れば、どうしても健康なスポーツ選手が死に近づいている構図が強調されてしまう。それを避けるためか、あえて、時系列をバラバラにし、グリーソンの一貫した人間としての哲学が浮かび上がるように、細かいショットを繋げるなどし、重くならないように見せていく。軽やかに、朗らかに。また、本作はアメリカではアマゾンスタジオの配給だったが、ネットフリックスややHuluを含め、スクリーミングの配信系の企業がドキュメンタリーの制作や配給に積極的な姿勢を見せていることもあり、今後ますます、個人史のドキュメンタリーが増えていくことが予想される。もしかすると、この記事を読んだあなたの人生もまた、映画になる可能性を秘めるのだ。
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」「装苑」「ケトル」「母の友」など多くの媒体で執筆中。著書に映画における少女性と暴力性について考察した『ブロークン・ガール』(フィルムアート社)がある。『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)、『アジア映画の森 新世紀の映画地図』(作品社)などにも寄稿。ロングインタビュー・構成を担当した『アクターズ・ファイル 妻夫木聡』、『アクターズ・ファイル永瀬正敏』(共にキネマ旬報社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワネットワーク)などがある。
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※2017年9月記事掲載時の情報です。