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ふたりのサブリナ、ひとつのコミック【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.34】

ふたりのサブリナ、ひとつのコミック【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.34】

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異なる作品に共通するオリジン





 一方はコメディ版を、一方はホラー版のコミックを元にしているので全く趣が違うわけだが、それでもオリジンは変わらない。前述のように大前提となるプロットは同じだし、サブリナをはじめ主要キャラクターも同じだ。似たようなポジションのキャラクターも多く配置されているので両者を見比べてみるのもおもしろい。どちらの作品でもサブリナはふたりの叔母、ゼルダとヒルダ姉妹と暮らしており、ふたりはサブリナを支え導き、ときには一緒にトラブルに対処するかけがえのない家族である。90年代版では姉のゼルダをベス・ブロデリックが、妹のヒルダをキャロライン・レイが演じた。ゼルダは知的で冷静、魔界のルールに厳しい厳格な叔母で、妹のヒルダは比較的サブリナに近い目線でアドバイスをしてくれるといった具合である。


 NETFLIX版でも叔母たちの基本的な性格や立ち位置は変わらないが、ミランダ・オットーが演じるゼルダは厳格さの裏に野心を抱え、ルーシー・デイヴィス扮するヒルダは姉に対するコンプレックスが強調されている。しかし、窮地に陥ったらゼルダが大胆な行動に出たり、ヒルダがサブリナの悩みを親友のように聞いてくれたり、問題に対して自分なりに対処した結果、やらかしてしまったりというようなところは、90年代版を思い出させてくれて楽しい。そういう共通して流れる血のようなものを見ると、どちらも同じ「サブリナ」なんだと感じられる。またどちらのバージョンにもサブリナの人間のボーイフレンドであるハービー・キンクルが登場。90年代版ではサブリナが魔女であることに気づくもすぐ記憶を消されるというのがお約束だったが、NETFLIX版ではそのくだりもたった一回だけである。陽気さと深刻さの違いはあれど高校生活と魔界の住人という二重生活の慌ただしさは、やはり90年代版と同じものを感じられて懐かしい。


 ぼくのお気に入りのキャラクターは黒猫のセーレム。90年代版ではスペルマン家で飼われるペットであり、サブリナが16歳になった途端に言葉を喋り始める。叔母さんたちもそうだが、よくそれまで黙っていたものである。とぼけたキャラクターだが本当は猫ではなく、世界征服を企てた罰として猫の姿にされている危険人物。ことあるごとにサブリナに助言をくれるが、かえって事態を引っかき回すことも。キッチンのカウンターやテーブルの上などに寝そべった黒猫が、しっぽや顔を動かしながらしゃべる光景は、この作品のトレードマークと言えるだろう。


 「ハリー・ポッターと賢者の石」に引き込まれたのもこのセーレムの存在があったからである。と言うのも、「賢者の石」第1章の章扉挿絵は猫が地図を読んでいる場面で、後にハリーを預かることになる叔父さんが、人間のような仕草をする猫を目撃するところから物語は動き出すのだ。猫の正体は変身したマクゴナガル先生であることが明かされるが、不思議な猫が登場する出だしで一気に夢中になったのをよく覚えている。その脳裏にはティーンエイジャーに怪しげな助言を吹き込むあの黒猫のキャラクターがいた。魔法の世界に猫は欠かせない存在である。NETFLIX版のセーレムはサブリナの使い魔であり、彼女が森で出会った「なにか」が黒猫の形をしている。言葉は話さず至って普通の猫として登場するが、得体の知れないものが猫になる様子を最初に見せられるので、ただの猫には全然見えない。



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