異邦のくまのパディントン
ぼくがパディントンと聞いて最初に浮かべるのは原作の本やそのイラストよりも、かつてのNHK教育でも流されていた人形アニメ版「パディントン・ベア」だった。このアニメの最大の特徴はパディントンと彼が触る小道具以外、ほかは全部紙に描かれたイラストというところ。背景はもちろんブラウン家をはじめ人物もみな紙である。ストップモーションなので、切り抜きのイラストである人物たちが少しずつ動くのも見どころだが、そうした中で唯一ぬいぐるみで出来たパディントンは異質である。
しかし、それはパディントンのお話そのものとも通じているのではないだろうか。紙とイラストで出来た平面的な世界の中に迷い込んだぬいぐるみは、遠い異国からやってきて、大きな違いを持ちながらも人々と一緒にイギリスで暮らすパディントンをうまく表現していると思う。同時にパディントンの質感やかわいらしさもとても際立つ。紙の人物がさらさらと動くのに対し、パディントンはもそもそと動く。イラストのタッチも白い部分が多く残される調子なので、ぬいぐるみの温かみがよく出ている。
一方、映画では紙の人物たちが生身の人間になり、ぬいぐるみのパディントンは本物のくまにアップグレードされた。今回はくまの毛並みと対照的な冷たい紙ではなく、パディントンを迎え入れるために雰囲気が調整された世界観で、人々も血が通って体温がある。その中でパディントンは生き生きと動き回り、本物の人間と並んでも違和感のないリアルなくまとして描かれた。姿は違えど、同じように生きているように見えなければならない。そのアプローチは紙とぬいぐるみによる人形アニメとは真逆と言っていいだろう。映画版では異なるものが違う世界に紛れ込んだというだけではなく、違うもの同士がひとつの同じ世界で暮らしているというイメージに進められているのだ。もちろんいずれも根底にあるのは同じもの。違いを越えた異種交流、なんて言うと少し硬いかもしれないが、くまの紳士と人々の繰り広げるドタバタ劇である。見ているだけでテディベアが欲しくなり、マーマレードサンドが食べたくなる素敵な世界だ。
イラスト・文:川原瑞丸
1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。「SPUR」(集英社)で新作映画レビュー連載中。