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作り手の“自我”が、恋の障害になるのが面白い。行定勲監督『劇場』【Director's Interview Vol.69】

作り手の“自我”が、恋の障害になるのが面白い。行定勲監督『劇場』【Director's Interview Vol.69】

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山﨑賢人は、危うさを隠し持っている俳優



Q:本作に限らず、行定さんのこれまでの作品は、『贅沢な骨』(01)、『パレード』(10)、『リバーズ・エッジ』(18)等々、人間の欲を掘り下げて描かれてきたように感じます。『ナラタージュ』(17)や『窮鼠はチーズの夢を見る』(20)で描かれるような“愛”も、1つの欲望ですよね。人間のどういう部分に、面白さを感じますか?


行定:身勝手さと甘えかな。


恋愛が最も面白いのは、冷静に考えるとものすごくこっぱずかしいことをしてるんですよ。でもその瞬間は、全世界が味方してくれるような気がしてる。だからこそ、恋愛に敗れる瞬間に失望や怒り、どうしようもなさに苛まれる。『劇場』もそうで、恋愛経験が豊富な方々はこの男女を「痛いな」と感じるんじゃないかと思う。でも、これが個人の内面から生まれるところが面白い。


流行りの恋愛ドラマは、出会うまでの努力とか、キスしたとかしてないとか、「お前あいつのこと好きなの?」「本当はあいつのこと好きだったんだろ!」とか、僕からするとかわいいエピソードに重点が置かれてるんだけど(笑)、そこじゃないと思うんですよね。


お互い好きなのに、どこかで愛憎というか――憎みあわないとこの人は救われない、と思うくらいの献身さというか、そういうものが面白いよなぁ、と僕は思います。




Q:すごく腑に落ちます。『劇場』でいうと、永田と沙希の出会いのシーンってかなり異質だと思うんです。画廊に飾られている作品を2人で眺めたあと、男が逃げる女を追うという。小説だと永田の一人称で語られているから合点がいくけど、映画では2人の視点でフラットに描かれているからこそ永田の挙動不審さが際立ち、「これでうまくいくのか」と衝撃性が強い。恋愛作品として非常に新しいと感じたのですが、このシーンの演出はどうやって行ったのでしょうか。


行定:役者がどう演じるかが重要だと思っていたんですが、山﨑賢人の無防備さですよね。明確な何かを持っているのかどうかが分からないくらい、挙動不審だったんですよ。「こう演じるのか!」と思いました。風貌もいつもの彼とは違いますよね。ある種、どこか精神的な障害を抱えているように思えないでもない。


藁をもつかむ思い、必死さだけは表現しようか、としかあのシーンは言ってなかったんですよね。自分は生きてても仕方のない人間だと思っていた時に、目の前にぱっと明るいものがあったので必死になるという。


その後にある喫茶店のシーンも絶妙で、「アイスコーヒー2つ」って相手のぶんも注文しちゃうところ。それに対し、松岡茉優が笑いながら「勝手に決めちゃった」と言いますよね。あそこから彼は、演技のドライブをかけたんだと思います。


というのも、山﨑が「(松岡の)顔が見れない」「恥ずかしい」って表情をしてるんですよ。ただ、後から「あの目の泳ぎ方が良かったよ」と伝えたら、「そうですか、良かったです」って。彼は無自覚なんですよ。




Q:そうだったんですね! その場に「生きていた」というような状態ですね。


行定:それを無自覚でやってしまうというね。でも、そこを基盤にしようと思って。


相手の顔が見られない状態から、だんだん向き合えるようになっていくというのが第1段階で、向き合えるようになったらどんどんわがままを言い始めるのが第2段階。この流れは最初から決めてあったから、ディテールに関しては山﨑が持っているものですね。


危うさを隠し持っている俳優だというのは、間違いなくあると思います。


Q:自分とあまりにも近い題材だと、映画化する際に“他者化”が難しいのではと感じていたのですが、山﨑賢人さんや松岡茉優さんの視点が入ることでバランスをとった形でしょうか。


行定:まず彼らの様子を見てみる、というのはありましたね。「もっと」と思う部分で極端にやってるところはありますが、基本的に山﨑が、永田というものを非常によくつかめていたんです。


本人も、「どうしてもこれはやりたい作品だ」と自分から言っていたんですよね。今までにない自分に挑戦する覚悟が、既にあったんだと思います。



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