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タイムマシン・デロリアンの改造案
前回は『スター・ウォーズ エピソードIV/新たなる希望』における宇宙酒場の客たちと、続編『エピソードV/帝国の逆襲』に登場する賞金稼ぎたちのデザイン上(あるいはプロップ、小道具や衣装上)の関係について取り上げたが、その原稿を書いている最中に、数々のSF映画を支えてきた巨匠ロン・コッブの訃報を知ることになった。ジョン・カーペンターとダン・オバノンによるカルト作品『ダーク・スター』やリドリー・スコットの説明不要の宇宙スリラー『エイリアン』などでも知られる彼は、『スター・ウォーズ』(あえて第1作公開当時のタイトルで呼ぼう)ではまさに酒場に集う宇宙人たちのいくつかをデザインしているのだ。
というわけで追悼の意も込めて、ここでは彼が手掛けたものの中でぼくが特に好きなものを紹介したいと思う。
まずは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』におけるタイムマシン・デロリアンの改造デザイン。シリーズの主役とも言うべきデロリアンの姿にも、コッブのペン先が息づいている。その初期案を見ると、すでに元となる車の形に合わせていろいろな機械を詰め込んだあのヴィジュアルの気配が。後部は完全に原子炉と思しきものや機器に覆われ、車体全体にも完成版に見られる伝導フレームのようなものが走っている。
最終的にはコッブのこの図案を叩き台に、劇場版『スター・トレック』や『宇宙空母ギャラクティカ』などにも携わったアンディ・プロバートがブラッシュアップを続け、お馴染みの姿が出来上がることになる。スタイリッシュに整った完成版のデロリアンに比べ、コッブの描いたものは後部の機械が左右非対称だったりと無骨な印象もあるが、映画で時を超えて疾走するその姿にもやはり面影は残っていると思う。
そしてぼくはこのスケッチそのものがとても好きだ。モチーフに自分で描いてみて、改めてごちゃごちゃした機械の中に適当な形のものが全然ないことを思い知った。どれも形がしっかりしていて、おそらく全てに役割が想定されていそうな説得力。これは完全に好みの問題だが、機械でありながらタッチに冷たさがないのも印象的。彼が本格的に車や機械の類を描く仕事をしていたのかといえば、実はそういうわけでもない。
そのキャリアは18歳でウォルト・ディズニーの『眠れる森の美女』に参加したことから始まるが(この時点で伝説的に感じられる)、映画の完成と同時に解雇されると職を転々とし、アメリカ陸軍に入隊してベトナムに送られる。帰還後にフリーランスのアーティストとして仕事を始め、アクの強い風刺漫画を描いて政治漫画家としての評判を得るが、やがてダン・オバノンの『ダーク・スター』を手伝ったことからその世界を進むことになる……このように、専門的に工業イラストレーションを描く仕事をしていたわけではないのだが、デロリアンのコンセプト画の精密さには驚かされる。自ら培った技術や知識、そしてセンスということになるのだろう。そこがかっこいいのだ。