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『エゴイスト』松永大司監督x鈴木亮平x宮沢氷魚 皆で挑んだワンシーンワンカット【Director’s Interview Vol.280】

『エゴイスト』松永大司監督x鈴木亮平x宮沢氷魚 皆で挑んだワンシーンワンカット【Director’s Interview Vol.280】

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どこが悪いか、あえて伝えない



Q:ホテルで二人が会うシーンでは監督のOKがなかなか出なかったそうですね。


松永:あのシーンは「コンコン」と扉を開けてから終わるまで、少なくとも5分くらいありました。30秒とか1分じゃないんです。


鈴木:しかも「コンコン」って来るまでも長いんですよ。僕が部屋の中に一人でいるところからずっと撮っていて、「コンコン」って来るタイミングも毎回違う。僕の方も特に指示は無くて、座ったり立ったり好きに出来ました。「自由に待っててください、どこかのタイミングで来ますから」って、そういう感じだった気がする。


松永:「用意スタート」がかかるときに、役者の状態さえ出来ていればそれで良い。だから浩輔としてどこに座っていて何をしているか、そこはご自由にどうぞと。


鈴木:面白いですよね。それは「あなたはもう浩輔だよね?」と言っているのと同じなんです。俳優を信頼してくれていることだから、すごく光栄でした。そうなると期待に応えたいし、より生々しいものを出せるのではないかと、自分自身への期待も出てくる。


宮沢:僕はあの日は本当に苦しかったです。自分が納得するものになかなか到達できなくて、自分に対する苛立ちやもどかしさがどんどん強くなっていった。本当に苦しくて「もう嫌だ!逃げたい!」と思っていたのですが、監督が「自分に負けんな」と言ってくれたんです。確かにあそこで逃げ出したら、自分にとって役者という仕事は終わっていたかもしれない。負けずに踏ん張れたからこそ、自分のキャリアにおいて大きな日になったと思います。


松永:ほとんどのテイクがとても良かったのですが、僕の中で数ポイントだけ「ここはもうちょっと……」というところがあったんです。その“ちょっと”を修正したいがためにテイクを重ねました。でもどこが悪いかは伝えません。「ここが違う」と言ってしまうと、役者はそこをめがけて芝居して来るので、他がおざなりになっちゃう可能性がある。自分の中にも正解があるようで無いから、少しでも何か言ってしまうと、その按配で変わってきたりもする。また、二人の芝居なので、一人が良くても相手が良くなかったりすることもあるし、その逆もある。だから場合によっては、カメラの動きのせいにすることもあるんです。そうすれば役者は芝居に対して意識はしない。でも本当に変えたいのは芝居の部分だったりする。そこはすごく考えましたね。



『エゴイスト』松永大司監督


鈴木:監督って大変だなぁ(笑)。人の繊細な心理を動かすって、すごく難しいことですよね。


松永:でもそれを可能にしてくれたのは二人だから。普通はこんなにワンシーンワンカットを何テイクも続けられない。本当に感謝です。二人ともそれに挑んでくれて、そこに面白さを感じてくれた。もっと引き出せるかもしれない、もっと良くなるかもしれないと、お互い絶対に妥協したくなかった。特にこのシーンは大事な場面だったので、「まぁいいか」じゃ終われなかったんです。カメラの動きにもこだわりましたし、かなり粘りました。


Q:そうやって何度もトライしていく現場はどのような空気になっているのでしょうか。


松永:意外と淡々としてたよね。


鈴木:全員が淡々と静かに集中していました。


松永:役者に課せられているものを目の当たりにしているから、皆が「この一発に賭ける」みたいなところが毎回あるんです。時間的な余裕を持って撮影していますが、一度始まると5〜10分は撮るので、すごい集中力が必要になる。でも今回はこうやって撮るんだと皆分かっているので、朝現場に行ったらシーンごとに流れを確認して、テストもせずに本番をやる。それを繰り返し淡々とやっていました。淡々とでなければ出来ないですね。個々がそれぞれの責任を持ってそこにいた感じでした。


鈴木:一番ありがたかったのは、常に我々の心情を邪魔しないようにしてくれたこと。撮影時以外もすごく繊細に扱ってくれて、「カメラが回っていなくても役のままで良いんですよ」と、そういう雰囲気を作ってくださった。「はい!じゃあ、そこの位置に立って!」とかいう声が響くことがなかったです。静かな状況の中で「用意スタート」と始まって、待っている状態からそのまま芝居に入れることが出来た。すごくありがたい現場でした。




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