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『トリとロキタ』ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督 「見えない人々」「見たくない人々」について語りたい【Director’s Interview Vol.297】

Photos (c)Christine Plenus

『トリとロキタ』ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督 「見えない人々」「見たくない人々」について語りたい【Director’s Interview Vol.297】

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『デルスウザーラ』の友情物語に感銘を受けて



Q:2つのトピックがあったなかで、実際に脚本はどのように構築されていったのでしょうか。またベースにされた実話などはあったのでしょうか。


リュック:10年前からわたしたちは、こういう話が実際に少なくないことを知っていました。当時はまだ具体的に脚本を書く段階には至りませんでしたが、移民の知り合いからもよく話を聞いていました。ひとつ大きなインスピレーションになったのは、フランスの雑誌で「子供時代と思春期についての雑誌(Revue de l’enfance et de l'adolescence)」というものがあり、そこで移民の子供たちの特集をしていたことです。その記事では、彼らが自国や、自分の言語、家族から離れて、なんの保障もないなかでひとり不安定な生活を送るなか、孤独が原因の病に侵されることが少なくないということです。映画のなかでロキタがそうであるように、パニック発作のようなものや、不眠症などです。その記事を読みながら、友情について語ることを思いつきました。なぜなら友情こそ、彼らにとって家族に変わるものだからです。トリとロキタはお互い弟と姉と偽りますが、そうしなければ彼らは引き離されてしまいます。


またその頃にちょうど黒澤明監督の『デルスウザーラ』(75)を観て、大きな感銘を受けたのも影響しています。これもまったく出自の異なる人間同士の友情を描いたもので、なおさら友情について語りたいという気にさせられました。



『トリとロキタ』©LES FILMS DU FLEUVE - ARCHIPEL 35 - SAVAGE FILM - FRANCE 2 CINÉMA - VOO et Be tv -  PROXIMUS - RTBF(Télévision belge)


Q:『デルスウザーラ』は大人の友情を描いたものですが、ここでは子供が主人公です。最初は年上のロキタがトリの面倒を見ていますが、だんだんと物語が進むに連れ、トリが機転を働かせ、ロキタを守ろうとする関係に変わっていきます。年長の女子と、年下の男子という設定は、意図したものでしたか。


ジャン=ピエール:はい、その方がドラマ的には興味深いからです。ロキタはトリを母親のように守ろうとする。一方、トリは小さいけれど、彼なりに解決策を探す。そして徐々に彼もまたロキタにとって母のような存在になる。その過程はスリラーの要素もあり、美しいものでもあります。でもふたりの関係性で大事なのは、一方通行ではなく両方が助け合っていること。そしてどちらかがどちらかに依存するのではなく、たとえ年齢差があっても対等の関係であるということです。


Q:ふたりの関係を繋ぐものとしては、歌もありますね。彼らがアフリカから渡ってきたときにイタリア人に教えてもらったという、イタリアのポピュラーな歌「Alla fiera dell’est」を歌いますが、なぜ彼らにとって異国の歌を選んだのでしょうか。


リュック:移民の人々が外国語を学ぶときに、歌を習うことは実際にあるのです。歌の方が覚えやすいからです。彼らにとっては自分の言語ではないけれど、それでも歌を通して友情を紡ぐことは可能なのです。それにまた、歌はそれぞれの不在を埋めるものでもある。ロキタがひとりのとき、彼女にとっては歌がトリの不在を埋めてくれるのです。





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