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『トリとロキタ』ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督 「見えない人々」「見たくない人々」について語りたい【Director’s Interview Vol.297】

Photos (c)Christine Plenus

『トリとロキタ』ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督 「見えない人々」「見たくない人々」について語りたい【Director’s Interview Vol.297】

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「見えない人々」の目を通して見えてくるもの



Q:キャスティングについてお伺いします。今回も、あなた方は主演のふたりに演技経験のない子供を選んだと聞いていますが、どのように選ばれたのでしょうか。


ジャン=ピエール:わたしの息子がキャスティングの会社を経営しているので、この映画でも彼に手伝ってもらいました。まずロキタ役から始め、ジョエリー(・ムブンドゥ)には2日目に会いました。すぐに彼女だと思いましたが、念のためもう一度会ってから決めました。それからトリ役を探しましたが、これには時間がかかった。優れた子役にも会いましたが、ちょっと活発さが足りなかったり、動きが重かったり。たぶん百人以上に会ったと思います。わたしたちはシナリオ通り、12歳で小柄で活発な子を探していた。パブロ(・シルズ)はぴったりでした。彼はとても規律正しい子供で、エネルギーの塊です。それにいい声をしていた。これはジョエリーも同じでした。ふたりは撮影前には会ったことがありませんでしたが、リハーサルですぐに親しくなりました。ふたりが役柄を自分のものとして、映画を牽引していくさまを見るのは感動的でした。



『トリとロキタ』©LES FILMS DU FLEUVE - ARCHIPEL 35 - SAVAGE FILM - FRANCE 2 CINÉMA - VOO et Be tv -  PROXIMUS - RTBF(Télévision belge)


Q:あなた方はつねに社会のなかの弱者を描いていますが、そのモチベーションはどこから来るのでしょうか。


ジャン=ピエール:わたしたちは人間に興味があるのです。そして社会のなかで「見えない人々」、あるいは社会が「見たくない人々」について語りたいと思う。彼らに物語を与え、彼らをソーシャル・ケースではなく、個人として見ることが大事だと思うからです。また彼らの目を通して社会を見ることによって、日頃わたしたちにとって見えないことが見えてくる。


リュック:ヨーロッパはいま、極右政党が増えていますが、彼らは人々の恐怖を利用している。わからないものに対する恐れは誰にでも存在するわけで、それを取り除くことはなかなか難しい。でも同時に、恐怖を持たずに連帯できる可能性もあると思うのです。


わたしたちが聞いた実話でこんなものがありました。フランスの田舎町のパン屋で、主人が未成年の移民の弟子を雇った。でも彼が18歳になったら正式なビザが降りず、国外退去されそうになった。それに対して主人は、「自分は彼に投資をして一人前にした。彼には才能があって、この職業を続けたいと思っている。国に返す理由はない」と、政府に対して断固戦ったのです。やがて街の人やマスコミも主人を支持し、みんなが連帯して国外退去に反対した。偏見や恐怖があっても、連帯することは可能なのです。だからこそ、わたしたちはこういう映画を作っている。それは、「何があっても、こういう人々が不当に死んでいくのはまともじゃない」と、観た人に感じてもらうため。そして「どうしたらこんなことが許されるのか」という激しい憤りを持って、不正に反対する気持ちになって欲しいのです。



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監督・脚本:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ

兄のジャン=ピエールは1951年4月21日、弟のリュックは1954年3月10日にベルギーのリエージュ近郊で生まれる。リエージュは労働闘争が盛んな工業地帯だった。ジャン=ピエールは舞台演出家を目指し、ブリュッセルで演劇界、映画界で活躍していたアルマン・ガッティと出会う。その後、ふたりはガッティのもとで暮らし、芸術や政治の面で多大な影響を受け、映画製作を手伝う。原子力発電所で働いて得た資金で機材を買い、労働者階級の団地に住み込み、74年から土地整備や都市計画の問題を描くドキュメンタリー作品を製作しはじめ、75年にドキュメンタリー製作会社「Derives」を設立する。78年に初のドキュメンタリー映画“Le Chant du Rossignol”を監督し、その後もレジスタンス活動、ゼネスト、ポーランド移民といった様々な題材のドキュメンタリー映画を撮りつづける。86年、ルネ・カリスキーの戯曲を脚色した初の長編劇映画「ファルシュ」を監督、ベルリン、カンヌなどの映画祭に出品される。92年に第2作「あなたを想う」を撮るが、会社側の圧力により、妥協だらけの満足のいかない作品となった。第3作『イゴールの約束』では決して妥協することのない環境で作品を製作し、カンヌ国際映画祭CICAE賞をはじめ、多くの賞を獲得し、世界中で絶賛された。第4作『ロゼッタ』はカンヌ国際映画祭コンペティション部門初出品にしてパルムドール大賞と主演女優賞を受賞。本国ベルギーではこの作品をきっかけに「ロゼッタ法」と呼ばれる青少年のための法律が成立するほどの影響を与え、フランスでも100館あまりで上映され、大きな反響を呼んだ。第5作『息子のまなざし』で同映画祭主演男優賞とエキュメニック賞特別賞を受賞。第6作『ある子供』では史上5組目の2度のカンヌ国際映画祭パルムドール大賞受賞者となる(註)。第7作『ロルナの祈り』で同映画祭脚本賞、セシル・ドゥ・フランスを主演に迎えた第8作『少年と自転車』で同映画祭グランプリ。史上初の5作連続主要賞受賞の快挙を成し遂げた。第9作『サンドラの週末』では主演のマリオン・コティヤールがアカデミー賞®主演女優賞にノミネートされた他、世界中の映画賞で主演女優賞と外国語映画賞を総なめにした。アデル・エネルを主演に迎えた第10作『午後8時の訪問者』もカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品。第11作『その手に触れるまで』は同映画祭コンペティション部門にて監督賞を受賞。本受賞により、審査員賞以外の主要賞をすべて受賞した。そして、第12作『トリとロキタ』で同映画祭にて第75周年記念大賞を受賞、9作品連続でのカンヌ国際映画祭コンペティション部門出品の快挙を成し遂げた。近年では共同プロデューサー作品も多く、マリオン・コティヤールと出会った『君と歩く世界』の他、『ゴールデン・リバー』『プラネタリウム』『エリザのために』などを手掛けている。他の追随をまったく許さない、21世紀を代表する世界の名匠である。

註)それまでに2度のパルムドール受賞者は、フランシス・F・コッポラ、ビレ・アウグスト、エミール・クストリッツァ、今村昌平だった。その後、12年にミヒャエル・ハネケ、16年にケン・ローチ、22年にリューベン・オストルンドが2度目の受賞を果たしている。



取材・文:佐藤久理子 

パリ在住、ジャーナリスト、批評家。国際映画祭のリポート、映画人のインタビューをメディアに執筆。著書に『映画で歩くパリ』。フランス映画祭の作品選定アドバイザーを務める。




『トリとロキタ』

3月31日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、渋谷シネクイントほか全国順次ロードショー!

配給:ビターズ・エンド

©LES FILMS DU FLEUVE - ARCHIPEL 35 - SAVAGE FILM - FRANCE 2 CINÉMA - VOO et Be tv -  PROXIMUS - RTBF(Télévision belge) Photos (c)Christine Plenus

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