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『不思議の国の数学者』パク・ドンフン監督 チェ・ミンシクの持つエネルギーと存在感【Director’s Interview Vol.308】
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小さな奇跡が起こりそうな空間
Q:カメラワークやアングル、ライティングや数式の表現効果など、ビジュアルへのこだわりも強く感じますが、この演出方法に込めた意図を教えてください。
パク:ライティングにはかなり気を使いました。ハクソンがジウに数学を教える倉庫(古い教室)は特にこだわっています。あの場所は「小さな奇跡が起こりそうな空間」というコンセプトを元に作りこんでいきました。その比較対象として、ジウが普段勉強している実際の教室を配置しています。あの教室は彩度が低く立体感に欠けている。一方倉庫の方は、暗くても温かみがあり非常に立体感がある。観客があの倉庫を見たときに、自分も同じ場所で遊びたいと思ってもらえるような空間設計を心がけました。スタッフと話し合ったときに、バロック時代のカラヴァッジョの絵と現代画家のデヴィッド・ホックニーの絵を見せたんです。このような対照的なコンセプトでいきたいと相談し、それぞれの倉庫と教室を作り上げていきました。
また、透明の黒板に数式を書いていくシーンは現実にはありえない構図ですが、あの場所は「小さな奇跡が起こりそうな空間」。どんどん空間が拡張されていくような、観客にはそんな奇跡を感じて開放感に浸って欲しかった。そして、まるで自分が特等席に座ってあの空間を見ているような、そんな錯覚を起こして欲しいという狙いもありました。
『不思議の国の数学者』© 2022 showbox and JOYRABBIT INC. ALL RIGHTS RESERVED.
Q:韓国映画はグローバルなマーケット展開を意識して映画製作がされていると聞きますが、監督として何か意識されている点はありますか?
パク:この映画を作っている時は、グローバル展開は全く頭にありませんでした。ただし今の時代はグローバル展開を考えずにはいられない状況。また、今は配信の方も気にしなければなりません。本来ならば劇映画を作ることだけに集中して、グローバル展開や配信については気にしなくてもいいと思うのですが、やはりどうしてもそちらの方に目を向けざるを得ない。そういう時期に来ているのかなと思います。劇場用の映画を作るのはそれくらい大変な状況にありますね。
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監督:パク・ドンフン
短編映画『War Movie』で第5回大韓民国映画大賞短編映画部門最優秀賞、『Enlightenment Film』で第54回アジア太平洋映画祭脚本賞を受賞したパク・ドンフン監督が、本作で初の長編映画に挑戦する。本作を「愉快なエネルギーと活力に満ちた映画。イ・ハクソンを通じて人生の可能性を描く物語」と紹介し、数学は難しくて堅苦しいものではなく、私たちの日常にある身近な存在だということを見せたいと語った。イ・ハクソンの数学の個別指導で学べることは、単純な数学の知識ではない。問題を解きながら2人は、自分の生きる方向性、一歩踏み出す希望と勇気をお互いから学ぶ。そしてとにかく「努力すればいい」という漠然としたメッセージではなく、大変で諦めたくなったときほど、周りに目を向ければ光を見い出すことができるのだという励ましをこの映画では伝えている。今の時代を生きるすべての人たちに深い感動と温かい癒やしを与えてくれるだろう。<主な作品歴>映画:『Enlightenment Film』(10)、『Girl by Girl』(07)、『War Movie』(05)、『In Between』 (02)、『Looking For』(00)、『Mother』(93) ドラマ:「ゲーム会社の女子社員たち」(16)
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
『不思議の国の数学者』
4月28日(金)より、シネマート新宿ほか全国ロードショー
配給:クロックワークス
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