『オールド・ボーイ』あらすじ
平凡な人生を送っていたオ・デスは、ある日突然何者かに拉致され気が付くと狭い監禁部屋にいた。窓の無い部屋にはベッドと1台のTVのみ、外部との交信は完全に遮断されている。ここはどこだ? 一体誰が、何のために――!? 一切の理由が明かされぬまま15年の月日が流れたある日、デスは突如解放された。復讐を誓うデスに手助けを申し出る若い女性ミド。そして目の前に現れた謎の男。男は5日間で監禁の理由を解き明かせと、命を賭した「死のゲーム」を持ちかける。しかしその先には驚愕の展開が待ち受けていた――。
衝撃の復讐譚が19年の時を超え、より美しくなって大スクリーンに帰ってきた。2004年のカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した、パク・チャヌク監督の代表作『オールド・ボーイ』(03)の4Kリマスター版が2022年5月6日に劇場公開。
当時のカンヌ国際映画祭で審査委員長を務めたクエンティン・タランティーノは本作を絶賛し、「本当は(グランプリではなく)パルム・ドールをあげたかった」とまでコメント。この年のパルム・ドールに輝いたのはマイケル・ムーア監督の『華氏911』(04)で、男優賞を『誰も知らない』(04)の柳楽優弥が受賞した……と書けば、かつての記憶がありありと蘇ってくるという人も少なくないだろう。
劇場公開から19年といえば、その年に生まれた子どもがもうすぐ成人を迎える年数だ。いまや『オールド・ボーイ』も、すっかりサスペンス映画のクラシックに仲間入りしていることは明らか。本作を劇場で観る機会に恵まれなかった若い映画ファンも少なくない現在、当時よりも鮮明な映像、迫力の音響で鑑賞できる機会を逃す手はないだろう。たとえストーリーを知っていたとしても、その演出的強度や圧倒的な美しさを体感できる絶好のチャンスには違いないからだ。
『オールド・ボーイ』予告
Index
4Kで堪能する、美しく残酷な復讐劇
1988年、ある雨の降る夜に、平凡なサラリーマンだったオ・デス(チェ・ミンシク)は誘拐された。テレビとベッドのある狭い部屋で目覚めたデスは、自分が監禁されたことを知る。窓のない部屋でデスと外界を繋ぐのは、扉の小窓から差し入れられる出前の中華料理と、テレビの画面のみ。妻が殺され、自分がその容疑者であることを知ったデスは自殺を試みるも、彼は何者かに生かされ続けていた。
犯人への復讐心を募らせながら、デスは身体を鍛え、脱走の準備を進めていく。しかしある日、彼は突如として解放されるのだった。すでに拉致から15年が経過していた2003年、デスは復讐の実行を決意する。ところが、偶然に出会った女性ミド(カン・ヘジョン)に助けられたデスは、謎の男イ・ウジン(ユ・ジテ)から“ゲーム”を持ちかけられるのだった。それは、たった5日間で監禁の理由を解き明かすというもの。もしクリアできなければ、その時はデスとミドを殺すという。逆にデスが謎を解けば、ウジン自身が死ぬことになると。
いったい誰が、何のためにデスを監禁したのか? 命を賭したゲームに挑むデスに、恐ろしい真実が迫っていた。
本作がいかに鮮やかに構築され、精緻に練り上げられたミステリー/サスペンス映画であるかは、もはや説明不要なほど知られている事実だ。公開当時には「結末を絶対に明かすべからず」という“ネタバレ禁止令”が発出されたほどだから、それから19年が経過したにせよ、本稿でこれ以上の展開を記すことはしない。パク・チャヌクによるストーリーテリングの妙、エネルギッシュな展開、密度の高い演出はまったく古びていないので、未見の方にはぜひ新鮮に驚いてほしい。
『オールド・ボーイ 4K』© 2003 EGG FILMS Co., Ltd. all rights reserved.
4Kリマスターで際立ったのは、『オールド・ボーイ』がまことに美しい映画であることだ。望遠レンズ、広角レンズをカット単位で使い分けることで、都市や建物、人々のありようを、ある時はダイナミックに、ある時は繊細に、またある時は異様な違和感をもって切り取る構図。緑がかった色調の中に赤色と紫色がきらめき、そして深い黒が闇を演出する色彩設計。堂々たる映像の迫力や色のインパクトが、登場人物が織りなす人間ドラマの輪郭をさらにくっきりとさせる。
たとえば全編を貫く緑色は、チャヌクがこの作品に“まるで腐敗したような”質感を求めて取り入れたもの。赤は血の色であり、デスの情熱やミドの女性性、ふたりの間に築かれる愛情などを示す。また、紫はウジンのテーマカラーで、随所に登場してはデスとミドを支配しようとする。それぞれの色がきちんと観客の目と心に残ることで、チャヌクが試みた映像的な目論みはさらなる高次元で達成されることとなった。
2003年当時、チャヌクは本作について「(観客の)心理ではなく肉体に影響を与えられる、疲労感を味わえる作品を作りたかった」と述べていたが、まさしく4K版は視聴覚を通じて観客の全身を作品世界に叩き込まんとする一作。ビルの屋上から男が飛び降りようとする有名なオープニングから、ニュージーランド・ロケによる雪のラストシーンまで、映像的な見せ場のつるべ打ちとはこのことだ。それらは美しく、最高に格好良く、そして残酷で痛ましい。