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『オールド・ボーイ』4Kで蘇る、美しくも残酷な復讐と暴力

© 2003 EGG FILMS Co., Ltd. all rights reserved.

『オールド・ボーイ』4Kで蘇る、美しくも残酷な復讐と暴力

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暴力の応酬、よりアクチュアルに



 『オールド・ボーイ』は、原作・土屋ガロン(狩撫麻礼)、作画・嶺岸信明による日本の同名コミックに基づく作品だ。1996年から1998年にかけて「漫画アクション」(双葉社)で連載された同作は、青年漫画のフォーマットを良くも悪くもフルに活かしたところがあり、2022年現在の感覚と価値観で読むと、時代の変化を感じるのも事実。映画版が約20年の月日を経ても古びていないことには、ワン・ジョユン&イム・ジュンヒュン&パク・チャヌクによる翻案の力が大きく作用している。


 原作と映画にはさまざまな違いがある。原作の主人公である五島慎一は10年間監禁されていたが、オ・デスは15年間監禁された設定だ。そのほか登場人物の設定や造形もそれぞれに違っているほか、中盤以降の展開はほぼまるごと異なり、監禁の理由や宿敵との戦い、物語の結末までが映画は独自のものに変更されている(映画版だけを知っているという人は、違いを比較するためにもぜひ原作をご一読いただきたい)。


 特に印象的なのは、オ・デスとイ・ウジンが繰り広げる闘いの本質が変更されていることだ。映画版のイ・ウジンにあたる原作の柿沼貴明は、ウジンよりもゲーム性を大切にしており、そこに暴力を介在させることを極限まで否定する。しかしウジンの場合、言葉上は「ゲーム」だと言うものの、暴力をいとわず、必要ならば殺人にも手を染めるのだ。同じくオ・デスも容赦なく暴力を行使し、復讐心のために金槌を振るって悪漢を殴り、敵の歯を抜く。暴力の応酬はどんどんエスカレートし、デスは自らの理性を意識しながらも、あえて復讐心に身を委ねるのだ。



『オールド・ボーイ 4K』© 2003 EGG FILMS Co., Ltd. all rights reserved.


 2003年当時、チャヌクは“復讐”について「時代と場所を超えて、どんな人間にもアピールするテーマ」だと語った。また「昔に比べて怒りの感情は増えているのに、今はそれを発散できない」時代であるとも。企画段階から本作に携わった主演のチェ・ミンシクも、世界の戦争や殺人を意識して映画を作り上げたことを認めている。


 このことが直接的に反映されたのは、映画の序盤に挿入される、デスが監禁された15年間の経過を示すニュース映像だ。光州事件など民主化運動の弾圧で知られる全斗煥大統領の逮捕やダイアナ妃の死去、南北分断以来史上初となった2000年の南北首脳会談、そして2001年の米国同時多発テロなど、その多くが暴力に関連することは決して偶然ではない。公開同年の2003年3月にはイラク戦争が開戦し、暴力と復讐の連鎖が現実となった。


 2022年の今、『オールド・ボーイ』を改めて鑑賞すると、このテーマがよりアクチュアルになってしまったことが実感される。現在も世界のあちこちで暴力の応酬は続いており、それは国家や民族、人種間だけでなく、スマートフォンの画面上でさえ起こるようになった。製作当時、チャヌクは「憎しみや反感を解消できる社会でなければ、復讐は時間が経てば経つほど、興味を喚起する物語になっていく」と予言したが、これが的中したことは言うまでもない。


 4Kリマスターで蘇った『オールド・ボーイ』は、その美しさとともに、暴力の痛ましさと虚しさをより強調して観る者に提示する。極上のストーリーテリングによるエンターテインメントとして、緻密に設計されたアート作品として、そして20年もの月日を経ても変わらなかった――ともすれば悪化してしまった――世界と人類を痛烈に批評するメッセージとして、ぜひこの時代に新しく出会い直しておきたい一作だ。


[参考文献・資料]

『オールド・ボーイ』プレミアム・エディションDVD(特典映像)、東芝エンタテインメント

『オールド・ボーイ』パンフレット、東芝エンタテインメント、2004年

『オールド・ボーイ4K』プレスシート、KADOKAWA、2021年



文:稲垣貴俊

ライター/編集/ドラマトゥルク。映画・ドラマ・コミック・演劇・美術など領域を横断して執筆活動を展開。映画『TENET テネット』『ジョーカー』など劇場用プログラム寄稿、ウェブメディア編集、展覧会図録編集、ラジオ出演ほか。主な舞台作品に、PARCOプロデュース『藪原検校』トライストーン・エンタテイメント『少女仮面』ドラマトゥルク、木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談―通し上演―』『三人吉三』『勧進帳』補綴助手、KUNIO『グリークス』文芸。



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作品情報を見る



『オールド・ボーイ 4K』

5月6日(金)全国ロードショー

配給:KADOKAWA

© 2003 EGG FILMS Co., Ltd. all rights reserved.

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