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『パラサイト 半地下の家族』滑稽さを笑えない―現代の格差に寄生した傑作

(c)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

『パラサイト 半地下の家族』滑稽さを笑えない―現代の格差に寄生した傑作

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※本記事は核心的なネタバレには抵触していませんが、映画の内容には踏み込んでいますので、映画鑑賞後にお楽しみいただくことをお勧めします。


『パラサイト 半地下の家族』あらすじ

全員失業中、“半地下住宅”で暮らす貧しいキム一家。長男ギウは、“高台の豪邸”で暮らす裕福なパク氏の家へ家庭教師の面接を受けに行く。そして兄に続き、妹ギジョンも豪邸に足を踏み入れるが…。この相反する2つの家族の出会いは、次第に想像を遥かに超える物語へと加速していく——。


Index


「社会性」と「娯楽性」のかけ合わせが絶妙



笑いが引きつり、狂おしいほどの憐憫といたたまれなさに包まれる。

132分の間、生き物のように観客の体内で変化する感情。

この映画は、心に寄生する――。


 『パラサイト 半地下の家族』(19)の勢いは、目を見張るものがあった。2019年に行われた第72回カンヌ国際映画祭では、韓国映画初となる最高賞パルムドールを受賞。2020年の第77回ゴールデングローブ賞では、外国語映画賞を獲得。第92回アカデミー賞では、作品・監督・脚本・編集・美術・国際長編映画賞と、何と6部門で候補となった(その後、作品賞・監督賞を含む4部門で見事オスカーを獲得!)。世界中の映画賞で約140の受賞、170以上のノミネートを記録しており、世界的に「世紀の傑作」との評価を受けている。


 各国の著名監督も、「観た瞬間から魅了され、観た後も自分のなかで育っていく」(アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ)、「ポン・ジュノは、最高賞パルムドールに値する映画監督だ!」(ギレルモ・デル・トロ)、「とんでもなく面白い、最高のスリラーだ」(エドガー・ライト)、「いま、ストーリーテリングにおいてポン・ジュノに並ぶ者は誰もいない」(アリ・アスター)と絶賛の声を浴びせているそう。(マスコミ用の資料より抜粋)


『パラサイト 半地下の家族』予告


 全世界興行収入は、1億3,000万ドル超(2020年1月時)。本国韓国では、約50日間で観客動員1,000万人を突破した。アメリカでは、初週の興行収入が外国語映画で過去最高となる驚異のヒットを記録。カンヌ国際映画祭の開催地フランスでも、170万人を超す観客動員を叩き出した。


 日本でも、人気俳優の吉沢亮や斎藤工、細田守監督を起用するなど異例ともいえるプロモーションを実施。一部劇場で先行上映を行って大いに盛り上げまくり、先に観た観客の絶賛評も相まって、一大ブームを生み出している。韓国映画という括りであれば『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16)はライト層も含めて大いに話題となったが、本作はよりパワーアップしたヒットの曲線を描いている。


 大いに話題を集めている『パラサイト 半地下の家族』だが、あらすじは至ってシンプルだ。家族4人が失業中で、半地下の住居で暮らすキム一家。彼らの運命は、長男ギウ(チェ・ウシク)が友人ミニョク(パク・ソジュン)の代わりに裕福なパク一家の英語の家庭教師を務めることになったことから大きく動き始める。身分を偽ってパク一家に取り入ったギウは、妹のギジョン(パク・ソダム)を美術の家庭教師として推薦し……。タイトルの通り、貧乏な家族が裕福な家族のParasite(寄生虫)となる物語だ。



『パラサイト 半地下の家族』(c)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED


 本作は、なぜここまでヒットしたのか? その大きな理由は、「社会性」と「娯楽性」が両立しているところにあるだろう。「貧困」や「格差」をテーマに、現実社会を鋭利に描いた手腕と、予想を裏切り続けるサスペンスフルな展開。そして、コメディからバイオレンス、ヒューマンドラマとジャンルを横断するエンタメ性。「貧乏な家族が、裕福な家庭に入り込む」という設定を聞いた時点で、人々の心は本作に囚われてしまうに違いない(ちなみにこの設定は、ポン・ジュノ監督が大学時代に家庭教師をしていた経験が基になっているそうだ)。


 近年のパルムドール受賞作は、『わたしは、ダニエル・ブレイク』(16)、『ザ・スクエア  思いやりの聖域』(17)、『万引き家族』(18)、『パラサイト 半地下の家族』と貧困を描いた作品が続いているが、前3作に比べて本作は圧倒的に娯楽性が高い。それでいて「軽く」ならないから末恐ろしい限りだ。


 『パラサイト 半地下の家族』は、観る者を選ばない。批評家も観客も関係なく、国や地域すら超えて、あらゆる人間の“興味”を喚起させる――。そしてこれは、ポン・ジュノ監督の得意技でもある。



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