(c)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
『パラサイト 半地下の家族』滑稽さを笑えない―現代の格差に寄生した傑作
2020.01.14
「格差」を覆す答えは、どこにあるのか
決して変わらない、環境が作り上げた人間の本質。
これはこの家族だけが抱える劣等感ではなく、裕福な家族の中にもある問題だ。こちらの家族では、「英語」という形で表現されている。この家族の妻は、アメリカへの憧れを隠さない。会話の端々に英語を織り交ぜ(それが故に貧乏家族に付け入られるのだが)、「アメリカ製だから安心よ」という理論を展開する。この家族の末っ子がアメリカン・インディアンにハマっている点も実に風刺的だ(ちなみにこの末っ子の服には高確率で英語がプリントされている)。
会話の端々で英語を挟んでくる裕福家族は私たち観客からすると滑稽なのだが、それがアメリカ人、ひいては白人社会への羨望なのだと考えると複雑な感情に襲われもする。真の意味で「満たされた」人間は、この映画の中に1人もいないのだ。だがその中で「人が人を雇用する」という使役関係が生まれ、雇う側は優越感を得て、雇われる側は自尊心と引き換えに資金を得ている。2家族が形作る歪な関係は、社会に「使われる」私たちそのものではないか。
『パラサイト 半地下の家族』(c)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
本稿の序盤で少し触れたが、『パラサイト 半地下の家族』の中では「計画」という単語も繰り返し使用される。この言葉は、まるで溺れる者が掴む藁のようだ。「計画がある」というマジックワードは貧乏生活がいつか終わるという希望を抱かせ、束の間の夢を見ることを許してくれる。しかし計画に依存すればするほど、思い通りにいかなかったときに彼らの心は脆く崩れてゆく。事業や受験の失敗など、家族の人生は「計画通りにいかない」ことばかりだったからだ。
ビジョンがなければ成り上がれない、しかし僕たちはどこで間違えたのだろう。彼らと僕たちは、何が違うのだろう――きっとそこに、答えはない。まるで運命づけられていたかのように、富者は栄え、貧者は地面に這いつくばる。寄生しても、両者の力関係は何も変わらない。搾取するようでいて、生かされているだけなのだ。
『パラサイト 半地下の家族』(c)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
闇夜の中、父親が息子に語りかける「絶対にうまくいく計画を知ってるか? 無計画だよ」という言葉は、重く重く我々の心にのしかかる。彼が言うように、諦めること、手放すこと、つまり思考を停止させることが「幸福」なのだろうか? 私たちは今後、「格差」というシステムから抜け出せるときが来るのだろうか? その答えを、本作は提示してくれない。
『パラサイト 半地下の家族』は、何もないところから生まれ出た作品では決してない。閉塞する現代の背中に寄生して肥大した、負の遺産だ。混迷の時代を正しくとらえた、限りなく“今”の映画。ただ「面白かった」だけでは、済まされない。
文: SYO
1987年生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌編集プロダクション・映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー・レビュー・コラム・イベント出演・推薦コメント等、幅広く手がける。「CINEMORE」「FRIDAYデジタル」「Fan's Voice」「映画.com」「シネマカフェ」「BRUTUS」「DVD&動画配信でーた」等に寄稿。Twitter「syocinema」
『パラサイト 半地下の家族』
出演: ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム、イ・ジョンウン、チャン・ヘジン
監督:ポン・ジュノ(『殺人の追憶』『グエムル -漢江の怪物-』) 撮影:ホン・ギョンピョ 音楽:チョン・ジェイル
提供:バップ、ビターズ・エンド、テレビ東京、巖本金属、クオラス、朝日新聞社、Filmarks/配給:ビターズ・エンド
(c)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED/2019年/韓国/132 分/PG-12/2.35:1/
英題:PARASITE/原題:GISAENGCHUNG/www.parasite-mv.jp