映画全体が上から下を見せていくように設計されているんです。『パラサイト 半地下の家族』プロダクションデザイナー イ・ハジュン【Director’s Interview Vol.50】
第72回カンヌ国際映画祭で最高賞パルム・ドールを受賞した、ポン・ジュノ監督の大傑作『パラサイト 半地下の家族』。物語の主な舞台は、貧しい4人家族が暮らす“半地下住宅”と、富裕層の家族が暮らす高台にある“大豪邸”だ。ある意味、もう一方の主役とも言えるこの二つの住宅を、プロダクションデザイナーのイ・ハジュン氏はどのように構築していったのか?ポン・ジュノ監督のイメージはどんなものだったのか?イ・ハジュン氏に話を伺った。
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ポン・ジュノ監督との仕事
Q:今回、ポン・ジュノ監督とは2度目のお仕事だそうですが、監督はどんな方でしょうか?
イ・ハジュン:ポン・ジュノ監督はいつも詳細にわたる説明をしてくれるのですが、時に説明されていない部分を推測するためにたくさんの思考を必要とされます。「うむ、彼が求めているのはこれか?それともこっちか?」と。しかしこういった過程はストレスにはなりません。そこから、最高の結果が生まれるからです。
例えば、彼に仕事を振られることで私の98%の能力が使われるとします。すると、ポン監督は残りの2%を私から引き出してくれるのです。彼は既にすべてを理解しているのではないかと感じます。それこそがポン監督の特別な能力です。彼はしっかりと意思疎通を図り、メッセージのやり取りをして、とても多くのことをスタッフと共有してくれます。
彼はまるで、巨大な船を操縦できる熟練の船長のようです。可能と不可能のバランスをとることができて、どんな状況でも適応する能力がある。そして、現場で怒鳴ったりは絶対にしない。彼は誰もが羨む理想の映画監督です。
そして、彼の脚本は非常に入念です。彼の考えや何を表現したいかといったことすべてがしっかりと脚本に反映されています。私たちが料理をするときに最も重要なのは素材です。ポン監督は既に素晴らしい素材を持っていて、私たちはただ、偉大なシェフと、良い調理器具、そして素敵な装飾で、それらを完成品に仕上げるだけです。これからも長く彼と仕事をしていきたいと願っています。
Q:今回の美術に対して、ポン・ジュノ監督のリクエストはどんなものだったのでしょうか?
イ・ハジュン:ポン監督は、脚本で描かれている富裕層のパク家の動線がとても重要だと言いました。そこで私たちは、彼が脚本を書いたときに描いた間取りのスケッチを見ながら、何度も話し合いを重ねました。庭からリビング、キッチンから地下、ガレージからリビングへの動線などは、監督が特に気を遣っていました。
また、監督は、登場人物によっては見えない死角を作ることも重要視していました。さらに、どのシーンも上から始まり、絶え間なく下降していく必要があると言っていました。それを踏まえて、映画全体が上から下を見せていくよう設計されています。
キム家の人々が裕福な街から貧しい街へ駆けていくとき、周りの風景は変化していき、水が溢れ出ていきます。それによって空間全体が完成するのです。上層の街と下層の街の違いや、その環境の変化を、シーンが豪邸から貧しい街へ変わる中で表現しようとしたんです。