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『お嬢さん』〈解放〉と〈帝国〉のおとぎ話、パク・チャヌクの翻案術 ※注!ネタバレ含みます。

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『お嬢さん』〈解放〉と〈帝国〉のおとぎ話、パク・チャヌクの翻案術 ※注!ネタバレ含みます。

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※本記事は物語の結末に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。


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19世紀のロンドンから、1939年の朝鮮半島へ



 あまりにも美しく、大胆で、そして爽やかなスリラー映画である。


 『オールド・ボーイ』(03)や『親切なクムジャさん』(05)、『渇き』(09)などで知られる名匠パク・チャヌクにとって、『お嬢さん』はまぎれもなくひとつの到達点だ。(監督本人は「集大成」と呼ばれることには消極的だけれども――。)観る者を惹きつけて離さないストーリーテリングと映像美、フェティッシュな細部へのこだわりが全編に充満し、フィルモグラフィにおいても抜きん出た完成度と言っていい。


 原作は、イギリスの小説家サラ・ウォーターズによる『荊の城』(創元推理文庫刊)。読者を華麗に欺く傑作ミステリとして知られる一作を、チャヌクは見事に映画化してみせた。舞台設定は『荊の城』の19世紀ロンドンから、日本統治時代である1939年の朝鮮半島へ。もちろん登場人物の設定も置き換えられている。


『お嬢さん』予告


 孤児の少女・スッキ(キム・テリ)は、とある仕事のため、華族の令嬢・秀子(キム・ミニ)のメイドとして上月家の屋敷で働き始めた。窃盗団に育てられたスッキは、旧知の詐欺師(ハ・ジョンウ)の計画を人知れず手伝っていたのだ。その男は、日本人の“藤原伯爵”として屋敷に入り込み、秀子と結婚して莫大な資産を受け取ろうと計画していた。用が済んだら、秀子を精神病院に送り込み、資産をまるごと奪い取ろうというのである。ところが、スッキは秀子にたちまち惹きつけられていく。秀子は美しく、純粋で、出自も自分に似ていた。ある夜、二人はついに結ばれる。しかし、“伯爵”の計画は止まることを知らず、また上月家にも大きな秘密が隠されていた。


 二転三転する騙し合いのスリル、人物の内面に肉薄する繊細な心理描写、そして公開時から話題を呼んだエロティックな表現の強度。『オールド・ボーイ』で日本のマンガを映画化したチャヌクは、本作でも原作のテーマやミステリとしての魅力を忠実に保ったまま、独自の深みと味わいをもつサスペンスを作り上げた。スタッフワークも洗練されており、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(17)などハリウッド映画にも進出している撮影監督チョン・ジョンフン、『殺人の追憶』(03)『母なる証明』(09)などのプロダクション・デザイナーであるリュ・ソンヒが生んだ画面の力、ショット単位の美しさには思わず唸らされることだろう。何よりも、145分(劇場公開版)という長尺を弛緩せず一気に見せきってしまうチャヌクの演出に舌を巻く。


 あらかじめ作品の魅力を(いささか駆け足に)記したのは、これから本稿では物語の具体的な展開に言及していくためだ。『荊の城』から『お嬢さん』を生み出すにあたり、チャヌクは原作を大きく改変しており、それらが原作にない本作固有のテーマを導き出したのだ。かくも複雑な物語の世界に、チャヌクはいったい何を仕掛けたのか。キーワードは〈解放〉と〈帝国〉である。





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