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『CLOSE/クロース』ルーカス・ドン監督 絶望の記憶を映画に“翻訳”する喜び 【Director’s Interview Vol.333】

© Menuet / Diaphana Films / Topkapi Films / Versus Production 2022

『CLOSE/クロース』ルーカス・ドン監督 絶望の記憶を映画に“翻訳”する喜び 【Director’s Interview Vol.333】

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『タイタニック』のような映画を目指した時期も



Q:この作品では、柔らかなライティングによる映像美が印象に残ります。撮影や照明には、あなたの強いこだわりも感じられます。


ドン:撮影監督は僕の前作『Girl/ガール』と同じフランク・ヴァン・デン・エーデンです。彼は僕の脚本を「詩」に変換する天才なんです。『Girl/ガール』と『CLOSE/クロース』でこだわったルールは、俳優のいる空間でカメラを横移動させないこと。子供たちが室内から外へ出る時は、カメラが窓をすり抜けたりしています。若い俳優たちに、映画のセットではなく、自分の居住空間で過ごしている感覚になってほしかったからです。その意味で照明も、あくまで自然な光にこだわりました。この物語は夏に始まります。私たちが子供時代に過ごした夏を光で表現しました。やがて花々が切り取られる時期、つまり夏が終わって映画の後半になると、止められない時間に合わせるように光も暗めになり、登場人物の顔ではなく離れた場所を照らします。そして最後に、また光が戻ってきます。この映画における光は、あくまでも有機的でリアルでありながら、様式化された美しさも提供しているわけですが、そのバランスがフランクの功績だと思います。日常に根付いた風景を、映画という芸術に変える彼の才能を、僕は心からリスペクトしています。



『CLOSE/クロース』© Menuet / Diaphana Films / Topkapi Films / Versus Production 2022


Q:レオとレミの関係を描く本作ですが、それぞれの親の目線に対して、あなたはどのようにアプローチしたのですか?


ドン:僕は私生活で子供がいないので、親になるのがどれだけ難しいか想像すらできません。ですから僕がこの映画について話す時は、「誰かの子供」という目線になってしまいます。とはいえ、親の立場から本作を観る人を過小評価しているわけではありません。この作品は、確かに親たちの問題も浮き彫りにします。自分自身はもちろん、まわりの世界について早いペースで知識を積み重ねていく子供に、親の世代はどう向き合えばいいのか。近い距離で生活しながら、子供たちを理解できないのはどんな気持ちか……。若い世代は、陸地と橋で結ばれない島のように、上の世代と隔絶したがるものです。しかしその感覚は、自分だけで生きようとする意味で重要でもあると感じます。


Q:以前に『タイタニック』(97)のような大作を手がける監督を夢みていたと語っていましたが、『Girl/ガール』と『CLOSE/クロース』を観る限り、その心境も変わってきたのでしょうか。


ドン:僕が『タイタニック』を撮りたいと思っていたのはずいぶん若い頃で、現実からフィクションの世界に逃れ、何か壮大なストーリーの中に埋もれたいという願望があった時期です。何かと世界は、細かなアイデンティティに基づいて、僕たちを分断しようとします。そうなると消えてしまいたくなる人もいて、僕もそんな感情から、自分の人生と完全に切り離された映画を求めていたのでしょう。『タイタニック』は僕とまったく無関係ですからね(笑)。でも、それこそが理想の映画だったのです。別の自分になりたいという願望が強かったのでしょう。


Q:そこからどう変わっていったのですか?


ドン:別の自分になるために、周囲の人たちを細かく観察し、彼らの行動を研究するようになりました。ちょっと屈折した行動ですが、いま映画を撮る時に当時の人間観察が役立っているのも事実です。自分を消し去りたい行為が、他者とつながる行為に変わったのです。今回の『CLOSE/クロース』では、子供時代の自分と、監督になった現在の自分がつながった感覚です。その流れで、映画監督としてやりたいことが今は見えてきました。エンタメ性を目的とした映画は大好きですし、沈没した巨大客船の世界に飛び込みたい気持ちもありますが(笑)、他に取り組みたい題材がたくさんあるということ。それが僕の今の状況です。



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(c) Kazuko WAKAYAMA

監督・脚本:ルーカス・ドン

1991年ベルギー、ヘント生まれ。ヘントにあるKASKスクールオブアーツ卒業。在学中に制作したショートフィルム『CORPSPERDU』(12)が数々の賞に輝き、2014年に製作した『L’INFINI』は2015年度のアカデミー賞短編部門・ノミネート選考対象作品となった。2018年に『Girl/ガール』で長編デビュー。第71回カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)受賞をはじめ、数々の映画賞に輝いた。本作では自身の経験を基に少年たちの友情と悲劇を描き、第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門グランプリ受賞をはじめ、第95回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされるなど世界各国の映画賞を席巻した。



取材・文:斉藤博昭 

1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。




『CLOSE/クロース』

7月14日(金)より全国公開

配給:クロックワークス/STAR CHANNEL MOVIES

© Menuet / Diaphana Films / Topkapi Films / Versus Production 2022

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