© Menuet / Diaphana Films / Topkapi Films / Versus Production 2022
『CLOSE/クロース』ルーカス・ドン監督 絶望の記憶を映画に“翻訳”する喜び 【Director’s Interview Vol.333】
思わぬ「賢さ」で決めた俳優初挑戦の主演2人
Q:子供たちの動きも、脚本時にイメージしたとおりですか?
ドン:僕の演出は、振付師のように正確さを求めるスタイルです。走ること、ベッドに横たわることなど、映画の中の動きは脚本を書きながら完璧にできあがっていました。そのイメージを映像として変換する感覚です。
Q:あなたの演出にメインキャストの2人の少年は見事に応えています。オーディションで彼らのケミストリーを実感して選んだそうですが、具体的な決め手を教えてください。
ドン:有望だと感じた候補者を集め、友人でもあるキャスティング・ディレクターの下で、彼らにいくつかの演技をみせてもらう場を設けました。最初に彼らへの質問リストを用意し、そのうちの一問が「世界でいちばん好きなのは誰?」でした。グスタフ(・ドゥ・ワエル/レミ役)の答えを確認すると「エデン」とあります。そしてエデン(・ダンブリン/レオ役)は「グスタフ」と記入しました。もちろん、これらの答えは嘘でしょう。彼らは、おたがいの名前を書くことで自分たちが役に選ばれる可能性を高めようとしていたのです。私はそれに気づき、大人の心を操ろうとする彼らの頭の良さ、悪く言えば「ずるがしこさ」に感心しました。同時に、われわれ大人が忘れかけた何かを持っていると認識したのです。若い世代に思わぬ才能があることは僕も理解していますが、予想を超えたプラスの何かが、この映画には必要だったのです。
『CLOSE/クロース』© Menuet / Diaphana Films / Topkapi Films / Versus Production 2022
Q:本作が俳優デビューとなるエデン・ダンブリンとグスタフ・ドゥ・ワエルの2人とは、どのように役を作り上げていったのでしょう。
ドン:若い俳優には、キャラクターを形成するための外枠と、創造力をフルに発揮させる自由、その両方を与えることが重要です。最初のプロセスでは、1回だけ通しで脚本を読みます。何度も繰り返すと、彼らは脚本に忠実になりすぎて操り人形のようになってしまうからです。重要なのは、書かれた物事を「実行させる」のではなく、「解釈させる」こと。その結果、役として生きられるのです。その後は、とにかく家族のように親密な関係を築いていきます。そして親しくなったら、質問をぶつけます。たとえば「レオは、なぜ親友を突き放したと思う?」などですね。僕は決して正解を与えません。答えを考えさせることが大切だからです。
Q:つまり撮影では、子役といえどかなり演じる自由を与えているわけですね。
ドン:監督の仕事をしていると、年齢に関係なく俳優は自由を与えられることで最高の才能を発揮するとわかってきました。もちろんカギとなるものは与えますし、悩んでいる時には助け舟を出します。でも演技における自由度はもっと過大評価されていい気がします。
Q:家族のように親しくなったことで、撮影でどんなメリットがあったのか、具体的な例を教えてください。
ドン:エデンと話をして、彼は悲しい時にトム・オデール(イギリスのミュージシャン)を聴くと知りました。感情的なシーンを撮影する際にエデンに「オデールを聴く?」と尋ねたら、彼は「聴きたい」と答え、見事に感情のこもった演技をみせてくれました。時間をかけて親密な関係になり、雑談で得た知識が、このように演技に役立つことになるのです。