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『シン・ちむどんどん』、むちゃくちゃ面白いぞ【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.34】

©「シン・ちむどんどん」製作委員会

『シン・ちむどんどん』、むちゃくちゃ面白いぞ【えのきどいちろうの映画あかさたな Vol.34】

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 昔、『ボウリング・フォー・コロンバイン』(02)を見たときに日本でもこういう機動力と知的探求心に富んだドキュメンタリー映画が作られないかなぁと思ったものだ。マイケル・ムーアは様々に評価が分かれる映像作家だが、一貫して僕のお気に入りの監督さんであり続け、後のドキュメンタリー作品に多大な影響を与えた。


 で、『劇場版 センキョナンデス』(23)を見たときにしびれたのだ。ダースレイダーとプチ鹿島の野次馬コンビこそ、僕の待望したドキュメンタリーの作り手だ。それもただ「マイケル・ムーア的なことを日本でやる」じゃない。「マイケル・ムーア的なことをもっとうまく、深く日本でやる」なのだった。僕は『劇場版 センキョナンデス』を世間より一歩遅れて、新潟市のシネ・ウインドで見たのだが、ミニシアターを出たときは嬉しすぎて意味もなく万代バスセンター(があるのだ、シネ・ウインドの間近に!)を一周したくらいだ。何ならスキップしたかった。


 『劇場版 センキョナンデス』はあくまで半年前の第1作なので、あんまり文字数を費やすべきではないのだが、作品のアウトラインを説明することにもなろうから、続けることにする。監督であり、主たる出演者でもあるのがラッパーのダースレイダーと時事芸人、プチ鹿島だ。2人は『ヒルカラナンデス』という時事ネタにビビッドに斬りこむYoutube番組を発信しており、前作『劇場版 センキョナンデス』は基本、そのYoutube映像を再編集したものだった。監督本人が出演者であり、撮影状況に応じて臨機応変にゲリラ戦を仕掛けていく、という意味で『劇場版 センキョナンデス』はマイケル・ムーアの正統な後継者だった。ターゲットは国政選挙。2021年衆院選の香川選挙区、2022年参院選の大阪府・京都府選挙区が取材対象になる。


 その野次馬っぷりが見事なのだ。各陣営の候補者にフレンドリーに話しかけ、パレードに参加しさえする。候補者の素顔、政治姿勢がカメラを通してわかりすぎるほど伝わってくる。2人はパフォーマー、芸人だから見せ方を知っている。とにかく抱腹絶倒なのだ。笑えて、わかりやすい選挙ロードムービー。だが、前作『劇場版 センキョナンデス』は思わぬ展開を迎える。街頭演説を聞き選挙事務所を訪ね、快調に撮影を重ねていたら、奈良で安倍晋三元首相が銃撃されたという一報が入る。


 状況は一変する。街頭演説の自粛が相次ぎ、野次馬コンビは野次馬できる現場を失う。ここで政治家も街頭演説をする意味(というか政治家たる意味、民主主義の意味)をあらためて問われたと思う。一方で野次馬コンビも「選挙を見る」「政治を考える」意味を一段深めていく。ここが本当に感動的だったのだ。


 長すぎる前置きはここまでにしよう。わずか半年で公開された第2作『シン・ちむどんどん』(23)。むっちゃくちゃ面白いぞ。前作を見て、野次馬コンビ(プラス2人が師匠と仰ぐライターの畠山理仁さん)のキャラがわかってる方ならもちろんのこと、『シン・ちむどんどん』で初めてこのシリーズに触れるという方も心配ご無用、あっという間に魅了されること請け合いだ。



『シン・ちむどんどん』©「シン・ちむどんどん」製作委員会


 今回は沖縄知事選である。各候補の街頭演説をまわり、野次馬活動がゴキゲンにスタートする。タイトルにもなった「ちむどんどん」というのはご承知のようにNHK朝の連ドラタイトルから来ている。胸がドキドキするというような意味だ。僕はプチ鹿島さんの着眼点が秀逸だと思うのだが、3人の候補者は全員、選挙プロフィールの「好きなドラマ」欄にNHK『ちむどんどん』を挙げていたのである。まず街頭演説を聞きに行って、積極的に話しかけ、ついでに定点観測的に「『ちむどんどん』のどんなところが好きか?」を尋ねる。本当にドラマを見ているのか? 沖縄の有権者向けに調子を合わせているだけか? ここでウソをついていたら選挙公約も何も全部ウソをついてることになる。候補者の人柄や透明性をはかる目安に『ちむどんどん』が使われる。


 まぁ、あらかじめコンテを立てて取材するドキュメンタリーじゃないから、ぶつかってみてどう転ぶかはやってみないとわからない。野次馬コンビはその「ぶつかってみて」のプロセスを全部見せてくれる。うわ、こっちに転びましたかー、と僕ら観客も驚くのだが、ダースレイダー&プチ鹿島のご両人も驚いている。選挙は驚くことの連続だ。出しものとして派手だし、ドラマがあるし、こうして丹念に追いかけると涙あり笑いありのドタバタ劇ができあがる。


 但し、それだけでは終わらない。


 僕は前作を見誤っていたらしい。「選挙を見つめ、面白がるドキュメンタリー」のはずが想定外の案件(安倍元首相の銃撃)に遭遇し、思いも寄らぬシリアスな政治ドキュメンタリーに化けた作品、なのかと思っていたのだ。今回の『シン・ちむどんどん』を見て考えを改めた。ダースレイダー&プチ鹿島、2人の映像作家兼出役はあらかじめとんでもなく熱くて、シリアスなものを内包している。


 面白がりたいんじゃなくて、考えたいんだ。面白がりながら考えたいんだ。

 何を? 沖縄を。沖縄を通して日本を。


 僕がこの映画でいちばん好きなのはダースレイダーさんが辺野古で座り込みを続ける人たち、警備のため立ち並んだ警官に向かって、即興のラップを聴かせるシーンだ。無茶振り同然で始まって、どうなることかと思ったらちょっと目頭が熱くなるような素晴らしいリリックだった。悪いことは言わないです。見たほうがいいよ。マイケル・ムーアを楽々凌駕してると思います。 



文:えのきどいちろう

1959年生まれ。秋田県出身。中央大学在学中の1980年に『宝島』にて商業誌デビュー。以降、各紙誌にコラムやエッセイを連載し、現在に至る。ラジオ、テレビでも活躍。 Twitter @ichiroenokido



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『シン・ちむどんどん』

8/11(金)~那覇・桜坂劇場にて先行公開&全世界同時配信

8/19(土)~東京・ポレポレ東中野/シネマ・チュプキ・タバタにてロードショー

 配給:ネツゲン

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