©10.7 productions/ARTE France/INA – 2022
『ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト)』シリル・ルティ監督 ゴダール神話の脱構築【Director’s Interview Vol.353】
女性の視点からゴダール映画を問い直す
Q:本作には、ゴダールについての本を書いた批評家や一緒に仕事をした仲間など、本当にたくさんの証言者が登場しますね。特に興味深く感じたのは、彼の映画に出演し、この作品でインタビューに答えている俳優の多くが女性であることです。どのように証言者を選んでいったのでしょうか?
ルティ:この人は絶対に出てもらわなければという人もいれば、個人的にぜひインタビューしたかった人もいたりと、人選の理由はさまざまです。ときにはこちらが取材したいと思っても、「自分は出演したくない」と断られることもありました。ただ、ヌーヴェルヴァーグの時代を振り返るには、かなり高齢の方たちに話を聞かなければいけないわけで、必然的に女性が増えたという面はあったでしょうね。総じて女性は長生きですから(笑)。
おもしろいのは、いろんな人々がゴダールという一人の男性について語っていくなかで、その核になる部分は必ず女性たちが話していることです。女性が男性について重要なことを語る。結果的にではありますが、この構図が、数年前から徐々に進んでいる女性の地位の高まりと合致することにもなり、とてもよかったと思っています。
取材をするなかで気づいたのは、男性が監督で演じる側も男性だと、両者の間にはどうしても上下関係が発生しやすいということ。一方女性の場合はゴダールをただの男性として見ていた人が多いようで、かなり辛辣に批判したりもできた。そういう、監督に対する立場上の違いが、ジェンダーの差異によってそれぞれ見えてきたのはおもしろいと思います。女優たちの多くは、神としてゴダールを崇めるのではなく、ただの人として彼を見ていたわけです。
『ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト)』©10.7 productions/ARTE France/INA – 2022
Q:実際、『恋人のいる時間』(64)に出演されたマーシャ・メリルは、「彼はミソジニー(女性嫌悪)ね」とはっきり語っていますよね。
ルティ:あれはインタビューのなかで彼女が自然に発した言葉ですが、それを映画に残したのは、もちろん私の意志によるものです。男性の芸術家によるミソジニーの問題は、今年『ル・モンド』紙でも取り上げられたり、フランスの映画学校で男性芸術家のミソジニーについて分析する授業が行われたり、もはや無視できない行動パターンとなっています。
ゴダールもいまや、こうした多くの問題ある男性芸術家たちの世代に属しています。最近では、ゴダールの『軽蔑』(63)をもう見ない、と宣言する人たちも出てきています。女性の体を道具として扱っている、メール・ゲイズ(男性のまなざし)による映画だと拒否したのです。とはいえ、ゴダールの作った映画が素晴らしいのは確かですし、それらを完全に消し去ってしまうのではなく、さまざまな議論を通して、芸術が再び進歩していけばいいなと私は考えています。