©10.7 productions/ARTE France/INA – 2022
『ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト)』シリル・ルティ監督 ゴダール神話の脱構築【Director’s Interview Vol.353】
ゴダール神話の脱構築
Q:ルティ監督は、最初に「ゴダールは神格化されている」とおっしゃっていましたが、日本でもやはりその傾向は強くあります。だからこそ、この映画を見てもう一度ゴダールについて語り直してもいいんじゃないか、もっと気軽に語ってみてもいいのでは、と思えてきました。フランスでもそうした新しい動きは出てきているのでしょうか?
ルティ:撮影中からその雰囲気はたしかに感じていました。映画のなかでは結局取り上げられなかったのですが、実は性別も年齢もバラバラな8人の映画批評家を集めてゴダールについて語ってもらったんです。もっとも若い人はWEBサイトで映画批評を書いている人で、「ゴダールについてもっと新しい面を語ってみたい」と話していました。別の若い女性の批評家も「今なら、批評家としてあらためてゴダールに疑問を呈すことができるかもしれない」と言っていました。ゴダール神話を崩し、自由な議論をするために、本作がひとつのきっかけになってくれればいいなと思います。
映画のなかで語りきれなかったことは本当にたくさんあります。たとえばゴダールは、俳優に対してもスタッフに対してもとても嫌な振る舞いをしていたり、友人と喧嘩別れしたりとかなり難しい人物でした。そうした性格的な部分を追求していったら、さらに興味深い話が出てきたでしょうね。
『ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト)』©10.7 productions/ARTE France/INA – 2022
また、彼とパレスチナとの複雑な関係性についてもそうです。ここ数年、フランスでは、ゴダールは反ユダヤ主義者なのではないかという議論が持ち上がっていました。もちろん彼はとても挑発的な人ですからそう簡単に決めつけることはできませんし、何よりパレスチナをめぐる問題は非常にデリケートなテーマであり、簡単には扱えない。それで今回はその問題を扱うことはあきらめました。この映画で描いたのはゴダールの一面に過ぎません。彼が亡くなった今、フランス国内外で、ゴダールをめぐるさまざまな新しい見方が出てくるのではないでしょうか。
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監督・脚本・編集:シリル・ルティ
フランスの映像・音響専門の高等教育機関、ラ・フェミス(国立高等映像音響芸術学校)で映像編集を学び、卒業後は多数のドキュメンタリーや劇映画の編集に携わる。編集を手掛けた主な作品に『Mods』(02/セルジュ・ボゾン監督)、『椿姫ができるまで』(12/フィリップ・ベジア監督)、『1992年』(短編/16/アントニー・ドンク監督)など。2015年の『La nuit s’achève』は、第46回ヴィジョン・デュ・レール(ニヨン国際ドキュメンタリー映画祭)でRegard Neuf特別賞を受賞し、第21回Chéries-Chérisパリ国際LGBTQ+映画祭の審査員賞を受賞するなど、各国の映画祭で高く評価された。その後も俳優やアーティストをテーマにしたドキュメンタリー作品を発表しており、フランスのシャンソン歌手、バルバラやジャン=ピエール・メルヴィル監督、俳優・歌手のモーリス・シュヴァリエなどのドキュメンタリーを手掛けている。本作『ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト)』は、2022年の第79回ヴェネツィア国際映画祭ヴェネツィア・クラシック・ドキュメンタリー部門にて上映された。
取材・文:月永理絵
映画ライター、編集者。雑誌『映画横丁』編集人。『朝日新聞』『メトロポリターナ』『週刊文春』『i-D JAPAN』等で映画評やコラム、取材記事を執筆。〈映画酒場編集室〉名義で書籍、映画パンフレットの編集も手がける。WEB番組「活弁シネマ倶楽部」でMCを担当中。 eigasakaba.net
『ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト)』
9月22日(金)より新宿シネマカリテ、シネスイッチ銀座、ユーロスペース、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
配給:ミモザフィルムズ
©10.7 productions/ARTE France/INA – 2022