制約の中でクリエティブを生み出す
Q：エイミーさんの場合はプロデューサーのスキルもあるから、監督をやりながらも予算のことなどが頭をよぎったりするわけですよね？
アニオビ：まさに100%その通り！ 監督やプロデューサーをしたことがない脚本家だと、とんでもない大きなストーリーを持って来たりするんです。例えば宇宙でカーチェイスをやるとかね（笑）。もちろん予算的な制約をかけることでクリエイティビティそのものを殺してしまうようなことはしたくはないのですが、クリエイティブを保ちながらもどういう風に予算的に解決していくかを考えるのは、すごく楽しい作業でもあるんです。パズルを組み立てるように、どうやって実現していこうかと考えるわけです。
また、予算のことだけを考えるプロデューサーもいれば、クリエイティブなプロデューサーもいる。例えば、クリエイティブなプロデューサーだったら、ロケ場所やセットの雰囲気なども一緒に考えてくれて、ロケハンまで一緒に行ってくれる。自分はあまり数字に強いわけではないので、どちらかと言えばクリエイティブなプロデューサーの方かな。決まった予算の中でストーリーテリングを実現するために、どういう風にクリエイティビティを発揮できるか、そのソリューションを考えていく。自分はそういうタイプのプロテューサーだと思っています。
Q：企画・脚本、撮影、編集と、映像制作のそれぞれの段階で「ストーリーテリング」とどのように向き合っていますか？
アニオビ：脚本家として書いているときは、やはり予算のことが頭にあるんです。だけど現場でディレクションをしているときは、予算的なことはあまり考えていません。そのときは予算管理の担当にお任せして、ディレクションだけに集中しています。そして、ポスプロ作業になると、プロデューサー脳を活用して予算のことも考え出すんです。ただ単純にベストテイクを選ぶだけではなく、「これは撮り直す余裕はあるだろうか？」ということを考えたりしますね。
企画・脚本から始まり、撮影して編集してという一連の作業がありますが、必ずそこにはストーリーテリングというものが1本の線でずっと繋がっています。撮影現場では、プロデューサーの部分を休んでいる瞬間はありますが、ストーリーテリングというものは最初から最後までずっと続いていて途切れることはありません。
Q：「ストーリーテリング」という観点で、影響を受けた映画や監督、脚本家などいれば教えてください。
アニオビ：本当にたくさんいますが、予算の話をしていて思い出したのはダニー・ボイル監督です。彼の手掛けた『ザ・ビーチ』（00）は予算が潤沢でしたが、映画としては酷い出来だった（笑）。その後に手掛けた『スラムドッグ＄ミリオネア』（08）は、オスカーも獲った素晴らしい映画でしたが、この作品は本当にバジェットが少なかったそうです。少ない予算の中でどうやってクリエイティブを発揮するかを考える必要に迫られた。予算という障壁をクリアすることにより、素晴らしい映画を生み出しオスカーを受賞したわけです。彼は「制約はクリエイティブを生み出す」という言葉を残しています。予算の制約があるときは、いつも彼のことを思い出し、どうやってクリエイティブを発揮しようかと考えますね。
また、予算の話でいうと、ライアン・クーグラーも素晴らしい監督です。『フルートベール駅で』（13）は、彼が育ったところの話をもとにした小さな映画でしたが、次に作ったのが『クリード チャンプを継ぐ男』（15）で、その次が『ブラックパンサー』（18）。だんだん予算が大きくなっていったのですが、彼のクリエイティブの部分は、予算の大小に関わらず全く変わらないんです。人によっては予算が大きくなると、作品のコアとなるエモーションの部分を蔑ろにしてしまう人もいますが、彼の場合は自分のアイデンティティやコミュニティの部分は決して変わらない。とても尊敬している監督です。
次回はカイル・バルダ監督のインタビューを掲載予定。お楽しみに！
取材・文：香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
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