アパルトマンも登場人物の一人
Q:スプリットスクリーンが感情も多面的に捉えていて、素晴らしく機能していました。
ノエ:この映画は孤独な二人の夫婦のお話なので、これまでもスプリットスクリーンを使ってきた経験から、今回はスクリーンを分割した方が良いなと。今はzoomでやり取りをする人も多く、画面に複数の映像が出ている構成には慣れていますよね。ちなみに、最初のシーンで二つの映像の間にラインが入ってきて画面が分かれていく手法は、編集段階で思いつきました。あれは最初(撮影時)からやろうと思っていたわけではありません。
Q:シーンの切り替えに暗転が使われていることも印象的でした。
ノエ:この手法は『エンター・ザ・ボイド』(09)や『CLIMAX クライマックス』(18)『ルクス・エテルナ 永遠の光』(19)でも使っているのですが、フレームでいうと6〜8フレームぐらいの間で暗転した方がエレガントに感じるんです。もちろん暗転を入れなくてもシーンを続けることは可能ですが、暗転はちょうど文章の後に句読点が来るような役割を果たしているんです。
『VORTEX ヴォルテックス』© 2021 RECTANGLE PRODUCTIONS – GOODFELLAS – LES CINEMAS DE LA ZONE - KNM – ARTEMIS PRODUCTIONS – SRAB FILMS – LES FILMS VELVET – KALLOUCHE CINEMA
Q:アパルトマンからは生活感をとても感じますが、セットとして作ったものなのでしょうか、それとも誰かが住んでいるところを装飾されたのでしょうか。
ノエ:あれは空いているアパルトマンを見つけて、ジャン・ラバスさんというフランスで最良のセットデザイナーが3週間ぐらいかけてセットを作り込んでくれました。私の両親はインテリ層だったので、部屋の中には本がたくさんあったのですが、この老夫婦も映画評論家と精神分析医で同じくインテリ層。それで両親の家と同じような形に仕上げてもらいました。最初は皆「え、ここ誰か住んでいるの?」と驚いていましたね。それくらいリアルに作ってもらったんです。もともと天井が低い場所でしたが、紙製のパネルでさらに天井を低くして、アパルトマンの最上階の屋根裏のような雰囲気を出しました。また、撮影の最後の方では台所でわざと果物を腐らせて撮影したんです。それで悪臭が広がってしまい、現場は大変でしたね(笑)。
このアパルトマンそのものも登場人物のような感じがしていたので、映画の中でダリオさんが亡くなり、フランソワーズさんも亡くなり、アパルトマンの中のものを撤去した後は、「この映画の中での三番目の死だね」と皆で話したものです。