誰もやっていないことをやりたい
Q:ギャスパー・ノエ監督からは、映画という表現手段への飽くなき探究心を強く感じますが、今後はどのような映画を作っていきたいですか?
ノエ:同じような映画は作りたくないですね。3Dやスプリットスクリーンやエロチックなものは、もう既に作ってしまったので、まだ作っていないドキュメンタリーや子供を扱ったような映画をやりたいです。今は自分自身を驚かすようなアイデアを模索中です。それが自分の喜びでもあり楽しみ。またそんな映画を作りたいですね。
『VORTEX ヴォルテックス』© 2021 RECTANGLE PRODUCTIONS – GOODFELLAS – LES CINEMAS DE LA ZONE - KNM – ARTEMIS PRODUCTIONS – SRAB FILMS – LES FILMS VELVET – KALLOUCHE CINEMA
今世界ではあちこちで戦争が起こり、ネットには批判的な書き込みが溢れ、ポルノも簡単に見ることができる。映画そのものも随分質が変わってきました。そういう状況だからこそ、パソコンやテレビで観るのではなく、映画館に行きたいと思わせるようなテーマを選びたい。『アレックス』(02)は当時のフランスでは結構受けたのですが、今同じことをやってもダメ。『LOVE 3D』(15)も同じで、今だと全く受けない。時代に合わせて自分でも楽しめるような映画を作りたいですね。
『VORTEX ヴォルテックス』を撮っている時は、メロドラマでスプリットスクリーンというのは今まで見たことがないと思い、この組み合わせを考えたんです。ビジュアル的にはエレガントでアピールの強いものに憧れます。木下恵介の『楢山節考』(58)のようなビジュアルの作り方や見せ方にとても影響をうけました。最近、篠田正浩監督の『心中天網島』(69)を観たのですが、ああいう映画の作り方は他のどの監督もやっていない。そういう誰もやってないことをやりたいんです。
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監督・脚本・編集:ギャスパー・ノエ
1963年12月27日、アルゼンチン・ブエノスアイレスで父である画家のルイス・フェリペ・ノエとソーシャルワーカーで英語教師の母の間に生まれる。5歳の時、ニューヨークへ渡り、再び、6歳でブエノスアイレスへ戻る。1976年、13歳の時にフランスへと移住。パリのルイ・リュミエールで映画を学ぶ。短編映画『Tintarella di luna』(1985)で映画監督デビューし、「Pulpe amère」(1987)を経て、91年に中編映画『カルネ』で、カンヌ国際映画祭の批評家週間賞を受賞。その続編となる初長編映画『カノン』(1998)をアニエス・ベーからの資金援助で完成させ、再びカンヌ国際映画祭で話題を巻き起こし、同賞(批評家週間賞)を受賞。2大スターを起用した『アレックス』(2002)では、モニカ・ベルッチがレイプシーンを体当たりで演じ、熾烈な暴力描写で賛否を呼び起こし、拡大公開された本国フランスではスマッシュヒットを記録。その後、東京を舞台にしたサイケデリックな輪廻転生物語『エンター・ザ・ボイド』(2009)、『LOVE 3D』(2015)では、メランコリックなラブストーリーとハードな性描写を自身初の3D映像で描き出し、賛否両論を再び巻き起こす。『CLIMAX クライマックス』(2018)では誤ってLSDを摂取してしまったダンサーたちが、次第に精神が崩壊していくさまを描き、鬼才ぶりを遺憾なく発揮した。その後、シャルロット・ゲンズブール、ベアトリス・ダルを起用した『ルクス・エテルナ 永遠の光』(2020)、『アレックス』を時間軸に沿った物語へと再構築し編集した”逆転完全版”とも言える『アレックスSTRAIGHT CUT』(2020)を経て、本作『VORTEX ヴォルテックス』が、第74回カンヌ国際映画祭でワールドプレミア上映された。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『VORTEX ヴォルテックス』
12月8日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開中
配給:シンカ
© 2021 RECTANGLE PRODUCTIONS – GOODFELLAS – LES CINEMAS DE LA ZONE - KNM – ARTEMIS PRODUCTIONS – SRAB FILMS – LES FILMS VELVET – KALLOUCHE CINEMA