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『ポトフ 美食家と料理人』トラン・アン・ユン監督 最も難しいのは空気感の創出【Director’s Interview Vol.378】

『ポトフ 美食家と料理人』トラン・アン・ユン監督 最も難しいのは空気感の創出【Director’s Interview Vol.378】

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最も難しいのは空気感の創出



Q:「今夜ドアをノックしてもいいかい?」といったロマンチックなセリフがとても好きでした。まるでポエムのような会話が自然に成立し、二人の愛情の深さを感じます。


ユン:何気ない会話の中にも、過去や現在の彼らの気持ちがたくさん含まれている。そういった会話から、二人の関係が一瞬にしてわかる空気をクリエイトすることが大切でした。


この映画を作っている時は、日本の皆さんのことが頭に浮かんでいました。ドダンやウージェニーは心の中の思いを簡単に口に出すことが出来ますが、日本人だとこうはいかないだろうなと。日本人は思っていることをあまり口に出せない印象がありますが、ちゃんと口に出して言った方がいいですよ(笑)。


Q:料理人見習いになるポーリーヌが言う「だって(二人は)20年も一緒に作ってきたんだよ」というセリフに胸を打たれました。そのシーンでのブノワ・マジメルさんも素晴らしかったです。


ユン:ブノワは僕の期待に完璧に応えてくれました。今回の作品は大好きなフランス文化へのオマージュのようなところがあるんです。僕は12歳のときにフランスにやってきましたが、これぞフランス文化だと思うのは、“節度”があること。誇張した表現もしなければ、陽気に馬鹿騒ぎをするわけでもない。どこか控えめで大袈裟に叫んだりしない。それがまさにブノワのあのシーンでした。号泣するでも嗚咽するでもなく、一粒の涙を流すというところが、まさにフランス文化だなあと。必要不可欠なものを表現してくれましたね。



『ポトフ 美食家と料理人』(c)Carole-Bethuel(c)2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA


Q:劇中、音楽が無かったことに全く気づきませんでした。料理の音だけではなく、外の風や鳥のさえずりなど、すべての音が心地よかったです。効果音の演出は緻密に調整されたのでしょうか。


ユン:音響効果の作業は大体2週間くらいあるのですが、僕はそれに最初から最後まで付き合う稀有な監督です(笑)。映像に風味があるのは音のおかげだと信じています。音が映像にマッチしていれば、その映像がもっと生き生きしてくるんです。


Q:効果音やカメラワークなどが相まって、空気感みたいなものがすごく伝わってきました。


ユン:自分が求めている空気感を創出することこそ最も難しい。そういった空気感を作り出す具体的な手法みたいなものは無いのですが、観客の皆さんにこういうものを見てもらいたいという欲求はある。撮影現場では、その欲求や直感に従うことにしています。もちろん映画的手法を総動員して撮影するわけですが、自分として満足できる素材が揃い、編集や音効などを経ることにより、“空気感”という驚くべきものが生まれてくる。それが観客を喜ばせることに繋がると思います。


空気感は“ポエジー(詩情)”とも言い換えられますが、このショットをポエジーにしようとか、そういうことは思っていません。あくまでも「自分にとって最高のものをきちんと的確に撮ろう」という積み重ねこそが、ポエジーとなってショットに出てくる。そこで初めて、ご褒美をもらったような満足感が得られるんです。



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監督/脚本/脚色:トラン・アン・ユン

1962年、ベトナム生まれ。1975年、ベトナム戦争から逃れて、両親と弟とフランスに移住する。1987年、エコール・ルイ・リュミエールにて映画制作を学ぶ。1993年、フランスのスタジオにセットを組んでベトナムのサイゴンを再現した『青いパパイヤの香り』で長編映画監督デビュー。カンヌ国際映画祭に出品され、カメラ・ドール(新人監督賞)とユース賞を受賞し、フランス国内でも絶賛されてセザール賞新人監督作品賞を受賞する。監督2作目の『シクロ』(95)はヴェネチア国際映画祭にて最年少で金獅子賞を受賞する。続いて『夏至』(00)、ジョシュ・ハートネット、イ・ビョンホン、木村拓哉などワールドワイドなキャストが出演した『アイ・カム・ウェイズ・ザ・レイン』(09)を監督する。2010年には、作家・村上春樹の世界的ベストセラー小説を映画化した『ノルウェイの森』を手掛け、松山ケンイチ主演で全編を日本で撮影する。2016年、オドレイ・トトゥを主演に迎え、19世紀末のフランスを舞台にした『エタニティ 永遠の花たちへ』を監督する。本作『ポトフ 美食家と料理人』(23)でカンヌ国際映画祭最優秀監督賞を受賞する。



取材・文: 香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。


撮影:青木一成




『ポトフ 美食家と料理人』

12月15日(金)Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか全国順次公開中

配給:ギャガ

©2023 CURIOSA FILMS – GAUMONT – FRANCE 2 CINÉMA

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