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『ポトフ 美食家と料理人』が描くガストロミー/美食学の深み

(c)Carole-Bethuel(c)2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA

『ポトフ 美食家と料理人』が描くガストロミー/美食学の深み

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『ポトフ 美食家と料理人』あらすじ

19世紀末。フランスの田舎町に佇むアンティークなシャトーでは、著名な美食家のドダン(ブノワ・マジメル)と、彼が閃いたメニューを完璧に再現する料理人のウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)が、食の真髄を追求すべく日々努力を続けていた。ある日、ウージェニーはユーラシア皇太子を迎える宴の席でフランス料理の基本であるポトフを振る舞いたいと提案し、周囲を驚かせる。そんな矢先、ヴィルジニーが病に倒れてしまう。そこで、ドダンは人生で初めて、自らの手料理で愛するヴィルジニーを元気づけようと決意するのだが。


Index


映画のテーマであるガストロミーとは



 映画『ポトフ 美食家と料理人』(23)は本サイトでも以前紹介した『大統領の料理人』(12)や『デリシュ!』(20)と並ぶ、フランス映画が自国の美食文化をベースにしたヒューマンドラマには違いない。少し異なるのは、登場人物たちが単なる料理人やグルメではなく、一般人には判別不能な味の違いを探り出し、風味、香り、質感、濃度のバランスを測ることができる芸術家であることだ。彼らが目指す食の究極形はガストロミーと呼ばれ、日本では美食術、または美食学と訳されることが多い。


 監督のトラン・アン・ユンがまず脚本の手がかりにしたのは、フランスの食の歴史にその名を刻む美食家で、1825年に出版した「美味礼讃」の著者として知られるジャン・アンテルム・ブリア=サヴァランをモデルにした小説「美食家 ドダン・ブーファンの生涯と情熱」(マルセル・ルーフ著)だ。「美味礼讃」は美食家や料理人のバイブルと讃えられる名著である。ブリア=サヴァランが文中に記している20の格言の中の一節は、呑気な食いしん坊たちを一瞬にして凍り付かせる。曰く「どんなものを食べているか言ってくれたまえ。そうすれば、君がどんな人であるのかを言い当ててみせよう」



『ポトフ 美食家と料理人』(c)Carole-Bethuel(c)2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT - FRANCE 2 CINEMA


 20の格言の中には他にもこんな記述がある。「新しい料理の発見は、新しい星の発見よりも人類の幸福に役立つ」「料理人の最も重要な資質は正確さであり、それはゲストの資質でもなければならない」「遅れてきたゲストを長く待ちすぎることは、出席者全員に対する配慮が欠けていることを示す」


 トラン・アン・ユンはブリア=サラヴァンに纏わる文献から、ガストロミーが美食学として確立される前のいわば前日譚を思い立つ。もしも、同じ屋根の下で暮らす男女が、愛情よりも深い、料理に対する哲学と執念を共有していたとしたらどうなるか? この視点は新しく、冷徹ではあるけれど同時に深い感動を呼び起こすことになる。





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