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ジョン・ファヴローのこだわりと人柄が見える『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.65】

ジョン・ファヴローのこだわりと人柄が見える『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.65】

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美味しそうなだけではない、気持ちのいい映画



 前回に続き、今回もジョン・ファヴロー作品を。人生の岐路に立たされたある料理人の再起を描く『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』は、ファヴローが監督・脚本・主演を務めた正真正銘ファブロー印の一本。彼ならではの細部へのこだわりによって映される調理シーンが印象的で、観ているだけでお腹が減る映画としてお馴染みなのだが、作品の魅力はそれだけではない。


 ロサンゼルスの高級レストランで料理長を務めるカール・キャスパーは、自分の料理を酷評した有名料理評論家ミッチェルと不慣れなツイッターで対決して見事に大炎上。実はカール、レストランのオーナーの意向で自分の思うような料理を出せず、ありきたりなメニュー料理をそのままミッチェルに出してしまい、不完全燃焼だったのだ。ミッチェルに再び来店して今度こそ自分の自信作を食べるようにと挑戦状を叩きつけるカールだが、今度はメニューを巡ってオーナーと口論になり、勢い余ってその場で店を辞めてしまう。さらに来店したミッチェルにも面と向かって怒りを爆発させ、客がその様子を動画に撮り、今度はそれが大反響。騒動が原因でどこの店からも声がかからず、仕事も地位を失ってしまうのだった……。


 かなりのどん底だが、不思議とそこに悲壮な雰囲気はないのがファヴローらしい。むしろここからなにが始まるのだろうというわくわく感さえある。仕事を失った後でカールを囲んで皆でバーで飲むシーンでも、カールは自分より職を選んで店に残った助手に対して恨み言のようなことは一切言わず、気まずそうにしている相手を励ますのだが、この時点でこの映画はなんだか「気持ちがいい」と感じられる。というよりカールが、そしてファヴローが気持ちのいいひとなのだと思えてくる。


 そのあともカールは元妻イネズの助言を受け入れてフードトラックの開店を決めるが、肝心のトラックはイネズの元夫(これを演じるのが『アイアンマン』での盟友ロバート・ダウニー・Jr)からの援助で譲り受け、そこに店をやめてカールを追ってきた元助手マーティンも合流して、トントン拍子で準備が進む。このトントン拍子というのが本当に小気味のいい感じで、元妻の元夫との対面も、互いに思うところはあれど険悪にはならないし、駆けつけたマーティンのツテでオンボロだったトラックもピカピカに塗り替えられ、準備万端。落ちていくときはどんどん負の連鎖で落ちていったのに、再起するときも同じように調子良く復活していくこのリズムがまたいい。後腐れみたいなものがないからこそ、再起の物語も気持ちよく観られるわけだ。




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