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ジョン・ファヴローのこだわりと人柄が見える『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.65】

ジョン・ファヴローのこだわりと人柄が見える『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.65】

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しっかりした料理描写とロイ・チョイ





 とは言えやはり調理シーンは本作のトレードマークだ。カールがトラックで移動販売することになるキューバンサンドイッチ(クバーノ)はもちろんだが、カールが元カノのモリー(スカーレット・ヨハンソン)に作るパスタや、息子パーシーのおやつに作るグリルドチーズなど、ファヴローの大きな手がそれらを作っていく丁寧な描写は何度も見返したくなるほどだ。仕事を辞めた直後に半ば憂さ晴らしで次々に作っていく創作料理の数々も素晴らしい。薄く伸ばした飴を砕いていくシーンなど、凍った水面に蜘蛛の巣状のヒビが入ったかのようで、美しくてお気に入りだ。


 カールが調理する場面はファヴロー自身が作業に当たっているが(それを強調するためかカールの指にはタトゥーが入っている)、この正確な手つきと料理の見事な出来栄え、もちろんプロのもとで訓練した成果である。技術顧問としてファヴローを訓練したのは、フードトラックムーブメントの立役者であるロイ・チョイで、カールのキャラクターはチョイからインスピレーションを得たところが大きいらしい。彼とファヴローの出会いは『アイアンマン2』の撮影時、現場にチョイの有名なフードトラック「コギ」がやってきたことから始まるそうなのだが、そう考えるとロバート・ダウニー・Jrやスカーレット・ヨハンソンの出演も、単にファヴローとの仲だけでなく、『アイアンマン2』撮影時にともにコギを味わっているからこそなのかもしれない。


 ファヴローとチョイは本作の後も、本作から派生したNetflixオリジナルシリーズ「ザ・シェフ・ショー ~だから料理は楽しい!~」でタッグを組んでいる。馴染みのゲストを迎えて料理をしたり、いろいろな店やイベントを訪ねて料理を「体験」するフードショーだが、『シェフ』の裏話が思い出とともに語られたりするところも楽しい。当時、料理の描写がしっかりしている映画が少ないとチョイに指摘されたことから、ファヴローはその描写のディテールに説得力を持たせようと努めたそうだが、ファヴローのそんな真剣な姿勢にチョイも感銘を受けたようだ。


 ファヴローがチョイに指導を受ける当時の様子は、『シェフ』のエンドクレジット中に挿入されているが、それが息子パーシーに作るグリルドチーズの調理過程である。パンにスライスチーズを挟んでそのまま直に鉄板で焼く。ただそれだけのものに思えるかもしれないが、チョイの手つきや横で見ているファヴローの眼差しは真剣そのもの。チョイの動きに1秒足りとも無駄はなく、パッパッパッと的確な動作でパンを焼き、チーズを挟んでさらに焼いていく。最終的な工程、全てを重ねて焼き、カットする段階で彼は言う。


「これだけに集中するんだ。世界にこのサンドしか存在しない。失敗したら世界が終わると思え」


 すごくかっこいい。何事もそんなふうに集中したいものである。そしてグリルドチーズを焼きたくなる。




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