「レジェンド」になるためにテレビの大喜利番組にネタを投稿。5秒に1本。狂ったように毎日ネタを考え続けて6年。その後、ハガキ職人を経て構成作家への道を進もうとした、笑いに取り憑かれた男“ツチヤタカユキ”。この実在の人物の痛いほどに純粋で激烈な半生を映画化したのが、本作『笑いのカイブツ』だ。主人公ツチヤを演じるのは岡山天音。お笑いだけしか見えていない振り切り過ぎた男を全身全霊で演じている。
岡山天音はいかにしてツチヤタカユキになったのか? 劇中のツチヤとは正反対の落ち着いた感じで、ひとつひとつ言葉を選びながら、非常に丁寧に答えてくれた。
『笑いのカイブツ』あらすじ
大阪。何をするにも不器用で人間関係も不得意な16歳のツチヤタカユキ(岡山天音)の生きがいは、「レジェンド」になるためにテレビの大喜利番組にネタを投稿すること。狂ったように毎日ネタを考え続けて6年――。自作のネタ100本を携えて訪れたお笑い劇場で、その才能が認められ、念願叶って作家見習いになる。しかし、笑いだけを追求し、他者と交わらずに常識から逸脱した行動をとり続けるツチヤは周囲から理解されず、志半ばで劇場を去ることに。自暴自棄になりながらも笑いを諦め切れずに、ラジオ番組にネタを投稿する“ハガキ職人”として再起をかけると、次第に注目を集め、尊敬する芸人・西寺(仲野太賀)から声が掛かる。ツチヤは構成作家を目指し、上京を決意するが――。
Index
生きるのがしんどい人を演じるのはしんどい
Q:原作・脚本を読んだ印象はいかがでしたか?
岡山:僕はラジオリスナーだったので、以前からツチヤさんのことは知っていました。ツチヤさんのエピソードは当時ラジオでもよく話題になっていましたが、まぁ誇張されているんだろうなと。でもその後、原作を読んだり監督の話を聞いたりしているうちに、あのエピソードは誇張ではなく、実寸大の面白さだったことが分かってきて、ツチヤさんからはどこか感化される部分もあった。撮影では大変な時間を過ごすことになるんだろうなと感じていました。
Q:滝本監督が「(撮影中)岡山さんはずっとしんどそうでした」とコメントされています。
岡山:ツチヤタカユキというキャラクターは生きるのがしんどい人なので、それはそうなりますよね。少なくとも本番中は朝から晩までツチヤの目を通して世界を見ているので、役を演じることで自分の中で同化している部分もあるし、共振している振動みたいなものもどんどん大きくなっていく。ツチヤという役を演じる上では、誰しもそうなるんじゃないかなと。
Q:ツチヤさんには実際にお会いされたのでしょうか。
岡山:はい。初めてお会いしたのは撮影現場で、劇場で働くシーンを見に来てくださったときにご挨拶しました。
Q:では演じられたツチヤ像は原作と脚本を読んだ上で作られたと。
岡山:そうですね。インスピレーションを受けて自分の中で広げたものと、映画的な効能がもっとも発揮できるツチヤ像は?という左脳的な観点で作っていった感じです。ご本人を模倣するようなことはしませんでした。
『笑いのカイブツ』©2023「笑いのカイブツ」製作委員会
Q:ツチヤを演じるにあたり滝本監督からのリクエストなどはありましたか。
岡山:特になくて放し飼いにしてくれました。笑いの“カイブツ”ですし、抑制されていない必要がある。ツチヤ主体で作らせてくれて、1シーン1シーン自由に動かしてくれました。監督から「ツチヤだったらこう動くのかな?」と僕に尋ねてきたりして、僕の中のツチヤを信じてくれた感覚があります。一方でエキストラ含めたツチヤの周りの人物には、小数点以下のところまで演出をつけられていました。それは見え方のような表面的なことではなく、その人がツチヤをどう捉えているか、どういう色の視線を向けているかと、そういった表に滲んでくるものを見ているんです。勝手な憶測ですが、監督は相当繊細な人だと思いますね。そうじゃないと、人間のことをそこまでフィクションに抽出できない。
普段、人と対面しているときの“あるあるの瞬間”、“あるあるの仕草”、“あるあるの心の動き”のような、潜在意識ですらキャッチ出来てないようなことも、監督は演出でつけていて、「人間ってそういう習性の生き物だよね」と感じさせてくれる。それを見ているのはとても愉快でした。自分もこういう風に人間のことを捉えていきたいなと、密かにメモしていました(笑)。