報道とドキュメンタリー
Q:本当に色んな部署の方が色んなテーマで作られていますね。
大久保:久保田智子さんはアナウンサーで入ってきて今は報道局のデジタル部門で記者をやっていますが、「自分の家族のことを記録としてちゃんと伝えたい。それにはドキュメンタリー映画しかない」と言い続けて、2年越しで今回の『私の家族』の映画化が決まりました。嵯峨祥平さんは普段は恋愛バラエティーをやっていますが、仕事とは全然関係ないラップを追いかけて『ダメな奴 ~ラッパー紅桜 刑務所からの再起~』を作りました。SDGsのテーマでは、川上敬二郎さんという「報道特集」のディレクターが『サステナ・フォレスト~森の国の守り人たち~』という作品を作り、『BORDER 戦場記者 × イスラム国』の須賀川拓さんはずっと戦場を撮り続けている。「情熱大陸」プロデューサーの沖倫太朗さんは「情熱大陸」の尺だと収まらないからと、自ら演出して『映画 情熱大陸 土井善晴』を作っちゃいました(笑)。
系列局も頑張っていて、北海道のHBCが作った『102歳のことば ~生活図画事件 最後の生き証人~』や、大阪MBSの『家さえあれば~貧困と居住支援~』、福岡のRKBからは『リリアンの揺りかご』『魚鱗癬と生きる -遼くんが歩んだ28年-』など、バラエティに富んだ作品がたくさんあります。
Q:元アナウンス部で報道局にいる佐古忠彦さんや久保田智子さんなど、職種や立場を超えてドキュメンタリーを監督されている方もいます。報道とドキュメンタリーは似て非なるものかと思いますが、皆さん、どのような思いをお持ちなのでしょうか。
大久保:報道部門は“速報”という宿命を背負っている以上、たくさん取材して撮ってきたとしても、放送されるのは1分前後のストレートニュースや、10分ほどの特集コーナーくらい。それでも報道に携わっている人間からすると、どうしても忘れられない取材の一つや二つは必ずあるもの。ただそれをちゃんと形にして発表する場所がないのです。また、戦争地帯に取材に行き死体が転がっているのを目の当たりにしても、コンプライアンス上それを放送することは出来ない。テレビの放送をやっている限りは、そういうジレンマを抱えていることも事実。自分が実際に取材して感じたものはしっかり丁寧に伝えたい。そういう思いは皆持っていると思います。
Q:テレビ局が制作した映像をテレビで流すのではなく、映画で流すということに社内で議論はありましたか。
大久保:そこはよく言われますね。「テレビ局なんだから、映画館ではなく全部テレビでやるべきだ」と。ただ、先ほどお伝えしたように、戦場の死体はテレビで映すことが出来なかったりと、どうしてもテレビで流せないものはある。そういう意味ではジレンマなのですが、映画にすることによって、コンプライアンスや時間の問題で諦めたものを伝えることが出来る場合もあるんです。
『坂本龍一 WAR AND PEACE 教授が遺した言葉たち』予告
Q:『坂本龍一 WAR AND PEACE 教授が遺した言葉たち』を拝見しました。「筑紫哲也NEWS23」での特集が映画内でとりあげられ、筑紫さんの姿を久しぶりに見て感慨深いものがありました。TBS社内のアーカイブを活かすことによる、気づきや学びみたいなものはありますか。
大久保:自分たちが作った番組は放送後しばらくは覚えていますが、何年も経つと記憶も薄れていくし、そもそも番組を観る機会も少ない。こういった機会に改めて見直すと、当時の制作者たちの思いや、今に繋がっていることなど、気づきも多いです。「News23」は今でも続いている番組ですし、今のスタッフはそういった過去の映像を見ながら、いろんな会話をしていると思います。彼らにとっても相当勉強になっていると思いますね。