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  3. 『ムクウェゲ 「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』立山芽以子監督 一人の医師を通して見る、コンゴの過酷な現実と我々のつながり【Director’s Interview Vol.188】
『ムクウェゲ 「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』立山芽以子監督 一人の医師を通して見る、コンゴの過酷な現実と我々のつながり【Director’s Interview Vol.188】

『ムクウェゲ 「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』立山芽以子監督 一人の医師を通して見る、コンゴの過酷な現実と我々のつながり【Director’s Interview Vol.188】

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コンゴ民主共和国の東部ブカブは「女性にとって世界最悪の場所」と評される。20年以上にわたり、40万人以上の女性がレイプ被害を受け続けてきたからだ。そんな国で女性たちを治療し、レイプを減らすための活動をする医師、デニ・ムクウェゲを描いたドキュメンタリーが製作された。『ムクウェゲ 「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』である。


レイプによって心身に傷を負った女性たちを、年間2,500~3,000人治療するムクウェゲ医師。彼は、コンゴが今なぜこのような状況に置かれているのかを諸外国に訴え、現実を少しでも良い方向に導こうとしている。その姿を追うことで見えてくるのは、遠いコンゴの過酷な状況が、我々の日常と密接に結びついているという驚くべき事実だ。平和な国で暮らす私たちも間接的な加害者になっているかもしれない。穏やかな作風の本作だが、そのメッセージは力強く、衝撃的だ。


監督は、TBS報道局で長年ニュース番組の記者として現場取材を続けてきた立山芽以子。報道局にいたからこそ実現した本作の舞台裏と、ドキュメンタリーの可能性について語ってもらった。


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6年に及ぶ取材が映画として結晶



Q:本作で提示される事実には驚かされるばかりです。まず制作のきっかけをお聞かせ下さい。


立山:私は以前からアフリカに興味があって、いろいろな取材をしていました。そうした取材で知り合った大学の先生やNGOの人たちが、2016年にムクウェゲ先生を日本に招聘することになったんです。当時の私は、コンゴの状況や、ムクウェゲ先生のような活動をする医師がいることを知りませんでした。それで是非取材してみたいと思い、お目にかかったのが最初のきっかけです。


Q: ムクウェゲ医師の最初の印象はいかがでしたか。


立山:その当時から人権団体から賞を授与されるなど世界的に著名な方でしたが、偉ぶった所がない。「自分が、自分が」という感じが全くない方でした。自分の話よりも、被害にあった女性や、コンゴの話を優先するのがとても印象的でした。


『ムクウェゲ 「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』© TBSテレビ


Q:本作は最初からドキュメンタリー映画にするために取材を始めたのですか。


立山:取材をはじめた当時、映画化の話はまだありませんでした。2016年に来日したムクウェゲ先生を初めて取材し、「ニュース23」で放送しました。その後も、コンゴに行って取材をしたいと思っていたのですが、会社からは簡単に許可が出ないので、取材はそれっきりになっていました。


すると2年後の2018年、ムクウェゲ先生がノーベル平和賞を受賞したんです。2016年当時は「ムクウェゲさんって誰?」とか「その人の取材をやる意味あるの?」みたいな感じで、社内は結構冷たかったんです。でもノーベル賞を受賞した瞬間「先見の明があるね」って(笑)


Q:日本人はノーベル賞が好きですよね(笑)。


立山:これはチャンスだと思って、「先生が会いに来いと言っています」と会社に訴えました。するとノーベル賞効果なのか(笑)、トントン拍子に話が進んでコンゴに行けることになりました。ある意味、何かに導かれたような気がします。


その取材の成果を「ニュース23」で放送したのですが、VTRの時間が短く、もったいないなと思っていました。それで再編集して深夜の25分ぐらいのドキュメンタリー枠で改めて放送しました。それが2019年の2月です。その後に、ムクウェゲ先生が広島を訪問するために再来日したんです。それで同行取材をし、また深夜枠で放送しました。


そうやって少しずつ積み重ねていたら、ドキュメンタリー映画を作ろう、という話が、2020年に社内で持ち上がりました。その時に「ムクウェゲ先生の素材を撮り溜めてあるから、あれならいけるのでは?」と言ってくださる方がいたんです。映画化ありきではなく、取材の積み重ねがあって、たまたま会社の方針が合致した感じですね。


Q:取材を根気よく続け、貴重な素材をストックしたことが功を奏したんですね。


立山:そうですね。テレビだと25分しか放送できなかったものを、こうしてまとめて世に出せるのは、ありがたいと思います。





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