『ムクウェゲ 「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』立山芽以子監督 一人の医師を通して見る、コンゴの過酷な現実と我々のつながり【Director’s Interview Vol.188】
レイプ被害者と加害者への取材
Q:本作で印象的だったのは、レイプ被害者の方々が顔を隠さず本名でインタビューに応じていたことです。
立山:ムクウェゲ先生のパンジ病院にレイプ被害者の方々が大勢入院していますが、そこで歩いている女性をつかまえて、いきなりインタビューしたわけではありません。パンジ病院では患者がどういう経緯でここに来て、どういう被害にあって、何年目の治療なのか、家族はどこに住んでいるのか、といった情報を全職員が把握しています。だから「あの子ならインタビューできると思う」とか「あの子はこの前もインタビューを受けたから、大丈夫かも」といった風に、病院の職員が紹介してくれたんです。
日本での放送なら顔や名前を出してもいいです、という人が多かったのですが、中には後ろ姿だけで顔は出てない人もいます。ただ、レイプ被害にあった8歳の女の子だけは、ムクウェゲ先生の強い希望で、顔を出さずにモザイクにしました。
通訳をパンジ病院の心療内科の先生にお願いしたことも大きかったです。その人は患者に何をどこまで聞いていいのか判断できるので、「この質問は行き過ぎている」、「この質問はやめましょう」とアドアイスをしてもらいました。私たちの質問で女性たちを傷つけないよう、ケアしてくれました。
『ムクウェゲ 「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』© TBSテレビ
Q:元武装勢力の兵士でレイプの加害者も顔出しでインタビューに応えています。彼らが自分の経験を感情を交えず淡々と語る様が印象的です。
立山:何をどこまで聞くか、かなり慎重にしましたが、意外にズバズバ核心的なコメントで答えてくれました。ただし彼らは「被害者に対し申し訳ない」、といったことはあまり言いません。逆に質問者である私が、謝罪の言葉を言わせようとしてるのではないか、と気づきました。自分は日本人的なステレオタイプな質問をしている、と反省しました。
Q:彼らは加害者ですが、武装勢力に兵士にされ、レイプすることを強要された人たちです。命令に従わなかったら殺される、という事情があったことも関係しているのでしょうか。
立山:確かにそれもあります。彼らにとっては、生きるためにそういう選択をするしかなかった。それを私たちが「謝らないのはひどい」と思うのは、自分たちが安全地帯に身を置いているから言えることですね。