『ムクウェゲ 「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』立山芽以子監督 一人の医師を通して見る、コンゴの過酷な現実と我々のつながり【Director’s Interview Vol.188】
プロの技術と個性を生かす演出
Q:今回の編集は普段一緒にテレビ番組を作る編集マンの方と組んだのですか。
立山:そうです。TBSのニュースの編集をしている大生さんという編集マンにお願いしました。テレビの深夜枠で放送したムクウェゲ先生のドキュメンタリーも彼が編集してくれました。
Q:所々でサイズチェンジのズームを、わざと使っているのかなと思いました。そういう細かい部分も印象的でした。
立山:そこは編集マンのこだわりですね(笑)。
Q:編集に関しては編集マンに任せる部分が多いのでしょうか。
立山:私は結構お任せタイプなので、細かいことはあまり言いません。やはりその領域のプロには独自の目線があると思います。私のやりたいことが伝わっていれば、あとはプロとしての彼の個性を生かしてあげた方がいいと思います。全体の方向性が逸れていったら「そうじゃないよね、こっちの方がいいと思うよ」って議論をすればいい。
Q:ロケでも、カメラマンになるべく任せるスタイルですか。
立山:インタビューの映像のサイズとか、いちいち言いません。「私はこういうことがしたい」という趣旨がカメラマンに伝われば、あとはお好きにどうぞと。でも私が「絶対はずしたくないのはここだ」と話しても、カメラマンは「俺はそうじゃないと思う」という主張を映像で返してきたりします。だから、撮った映像をチェックして、「なんで、ここでズームしてないの!?」と思うこともありますね(笑)。
『ムクウェゲ 「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』© TBSテレビ
Q:確かに、そういうことはありますね(笑)。
立山:ありますよ。「言ったのに!」みたいな(笑)。だから現場で「私の話を聞いてないの?」ってよくケンカしますけど、他者と組んでやるってそういうことですから。「なぜ自分の思う通りにならないんだろう」と思うなら、一人でやるしかない。
現場に行く時は記者とカメラマンとVE(*)さん。だから私は「楽しいことは3倍だし、苦しいことは3分の1」ってよく言うんです。でも、お互いに気を遣わないといけないから、結局苦しいことも3倍だと思いますけど(笑)。
*)VE:ビデオエンジニア。映像が適正に収録されるように各種調整を行う。ロケでは音声マンを兼ねることも多い。
Q:現在のテレビでは、ディレクターがカメラを持って一人で取材に行くことが普通になっています。カメラマンとVEさんがロケに行けるのは贅沢なことだと思います。
立山:実は報道局でも、徐々に1人で取材に行かされるようになっています。ただ、まだカメラ専門の人がいて、VEさんや編集マンがいるというのは有難い。そういう意味でも、ドキュメンタリー映画の可能性は報道局にあるかも、と思います。
Q:今回はじめてドキュメンタリー映画を作ってみていかがでしたか。
立山:地上波ではこういう長い尺のものを作れる機会はなかなかないので、すごく勉強になりました。それに私自身がこういった取材を受けたりするのも初めてで、質問されると自分の中ですごく考えるし、映画をみてくださる方の反応も、新たな気づきがあります。何かいいテーマに巡り合えたらまた是非チャレンジしたいですね。
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監督:立山芽以子
1973年長野県生まれ。津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業。専攻は国際政治。1997年TBS入社。政治部で官邸、防衛省などを担当。社会部では国土交通省担当のほか、2011年東日本大震災の際は原発事故の報道を担当する。news23では9年にわたりディレクターなどを務め、現在は外信部デスク。
取材・文: 稲垣哲也
TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)
『ムクウェゲ 「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』
2022年3月4日(金) より全国順次公開
新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺ほか
配給:アーク・フィルムズ
© TBSテレビ