©2023 Metro Lato Sp. z o.o., Blick Productions SAS, Marlene Film Production s.r.o., Beluga Tree SA, Canal+ Polska S.A., dFlights Sp. z o.o., Česká televize, Mazovia Institute of Culture
『人間の境界』アグニエシュカ・ホランド監督 世界は危険な方向に進んでいる【Director’s Interview Vol.402】
世界は危険な方向に進んでいる
Q:難民の救助に手を貸さない友人や難民の受け入れに不安を覚える妊婦など、多様な視点が描かれるのも印象的です。そういった層はポーランドでは多いのでしょうか。
ホランド:当時は政府によるプロパガンダがひどく、難民に対しての不安が広がっていました。ポーランドに限らず、ハンガリーやイタリアなどでも、難民を恐怖の対象としてプロパガンダを打ち出していました。難民が来ることによって、自分たちの生活が脅かされるかもしれない、仕事を失うかもしれない、そういった潜在的な恐怖は誰もが持っているもの。プロパガンダはまさにそこに付け込んでいました。
一方で、人の共感や思いやり、エンパシーを利用したプロパガンダを打ち出すこともあります。ウクライナからの難民の受け入れがその分かりやすい例で、彼らは友好的にたくさん受け入れられています。政治家は恐怖心とエンパシーをうまく使い分けます。2015年のポーランドでの選挙では、シリアの難民問題を使ったプロパガンダで恐怖心を煽った方が勝利しました。人種差別的な言葉を駆使し、難民は病原菌を持ち込む危険な存在だと煽り、65%いた難民受入れ支持層はたった2ヶ月で30%にまで落ち込みました。
自分と異なるものに対する恐怖心があることは皆同じです。突然やってきた異文化圏の人々を受け入れることは、容易いことではありません。ただし、それを解決することは決して不可能ではない。そのためには、政治的影響力を持つ人々や、宗教の各宗派、人道支援団体、教育機関が一つになる必要がある。それにより今ある諸問題も解決に向かうのではないかと考えています。
『人間の境界』©2023 Metro Lato Sp. z o.o., Blick Productions SAS, Marlene Film Production s.r.o., Beluga Tree SA, Canal+ Polska S.A., dFlights Sp. z o.o., Česká televize, Mazovia Institute of Culture
Q:取り調べをする警察官など全体主義を思い出させる描写もありますが、一方でフォローしてくれる女性警官も存在していて、救いもあります。第二次大戦中や直後と比べると少しは良くなっていると感じますか。
ホランド:あまり希望は持っていませんね(苦笑)。世界は危険な方向に進んでいると思います。ジョージ・オーウェルが「モンスターたちが世界を導くのだ」と言っていたように、まさにそういうモンスターが世界中で頭をもたげ始めている。しかもモンスターたちは人民の支持を得ている。劇中では、サディスティックな警察官と、シンパシーを感じさせる女性警官をそれぞれ描きましたが、そういった分断は世界中で起こっている。ここポーランドでもそうだし、アメリカでもそう、ブレグジットなどもわかりやすい例ですね。国や地域で極端な形の二極化が進んでしまっている。私自身の人生でこれほどまでに分断を感じたことありません。
気候変動やカタストロフィーに関する問題もあり、それに対する考えも様々。そういった問題の答えを見つけることは難しいですが、とにかく落ち着いて、皆で一緒に科学的に分析をしながら解決策を見つけていくしかない。しかし今、人々は科学やコラボレーションを拒否してしまった。人類が目覚めて気づくためには、もしかしたらまた大きな戦争が必要なのかもしれません。もちろん絶対に起こって欲しくはないですが…。