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『人間の境界』アグニエシュカ・ホランド監督 世界は危険な方向に進んでいる【Director’s Interview Vol.402】

©2023 Metro Lato Sp. z o.o., Blick Productions SAS, Marlene Film Production s.r.o., Beluga Tree SA, Canal+ Polska S.A., dFlights Sp. z o.o., Česká televize, Mazovia Institute of Culture

『人間の境界』アグニエシュカ・ホランド監督 世界は危険な方向に進んでいる【Director’s Interview Vol.402】

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ベラルーシ政府がEUに混乱を引き起こす狙いで大勢の難民をポーランド国境へと移送する<人間兵器>とよばれる策略。本作『人間の境界』では、その策略に翻弄された人々の過酷な運命を、シリア人難民家族、支援活動家、国境警備隊の青年など複数の視点から群像劇として描き出す。監督は、3度のオスカーノミネート歴を持ち『ソハの地下水道』(11)『太陽と月に背いて』(95)など数々の名作を世に送り出してきたポーランドの巨匠アグニエシュカ・ホランド。


友人のカメラマングループと国境の写真を撮影するなど難民をめぐる問題を追っていたホランドは、政府が国境を閉鎖したことで情報が遮断された2021年に「国境に行くことができなくても、私は映画を作ることができる。政府が隠そうとしたものを、映画で明かそう」と本作の制作を決意。政府や右派勢力からの攻撃を避けるためスケジュールや撮影場所は極秘裏のうちに、24日間という驚異の猛スピードで撮影を敢行。隠蔽されかけた国境の真実を、大量のインタビューや資料に基づき、心を揺さぶる人間ドラマとして執念の映像化を果たした。


ところが当時のポーランド政権は本作を激しく非難、公開劇場に対して上映前に「この映画は事実と異なる」という政府作成のPR動画を流すよう命じるなど異例の攻撃を仕掛けた。しかし、ほとんどの独立系映画館がその命令を拒否。ヨーロッパ映画監督連盟(FERA)をはじめ多数の映画人がホランド監督の支持を表明し、政府vs映画という表現を巡る闘いが世界的な注目を集めた。


政府からの猛批判は監督が訴訟を示唆するまでに発展し、宣伝会社のSNSに誹謗中傷が寄せられるなど監督自身が身の危険を覚えるほど論争が激化する中、ポーランド国内では公開されるや2週連続トップの観客動員を記録。ポーランド映画として当時年間最高となるオープニング成績をたたき出し、異例の大ヒットとなった。


御年75歳のアグニエシュカ・ホランド監督。彼女はいかにしてこのパワフルな映画を作り上げたのか? 話を伺った。



『人間の境界』あらすじ

「ベラルーシを経由してポーランド国境を渡れば、安全にヨーロッパに入ることができる」という情報を信じて祖国を脱出した、幼い子どもを連れたシリア人家族。しかし、亡命を求め国境の森までたどり着いた彼らを待ち受けていたのは、武装した国境警備隊だった…。


Index


“映画の持つ力”に疑念を抱いていた



Q:ニュースだけでは伝わってこない事実に動揺を覚えつつも、その事実を映画が教えてくれた意義を強く感じます。社会性を持った映画を長年手掛けられてきましたが、ご自身は映画の持つ力を実感されていますか?


ホランド:実はここ10年ほど、“映画の持つ力”に対して疑念を抱いていました。映画は、内省的に自分を見つめる機会を与えることか、娯楽を与えることしか出来ないのではないかと。そんな思いの中で作った『人間の境界』でしたが、観客のリアクションはとてもパワフルなものでした。そのおかげで、改めて“映画の持つ力”を信じられるようになりました。映画が世界の状況を変えるとまでは思ってはいませんでしたが、観てくださった方々が何か変わってくれればと希望は抱いていました。正にこの映画でそれが叶ったのです。



『人間の境界』©2023 Metro Lato Sp. z o.o., Blick Productions SAS, Marlene Film Production s.r.o., Beluga Tree SA, Canal+ Polska S.A., dFlights Sp. z o.o., Česká televize, Mazovia Institute of Culture


この映画を携えて母国ポーランドをはじめヨーロッパの様々な映画祭に行きましたが、どこに行っても観客のリアクションはとても感情的で、皆さん自分事として捉えてくださった。自分も何か行動せねばと肌で感じてくださったのです。本当に嬉しくて胸がいっぱいになりました。本作は色んな映画祭でたくさんの観客賞を受賞しました。二時間半もある白黒映画で重い題材にも関わらず、それでも観客の皆さんが支持してくれた。皆さん、何かを感じてくださったのだと思います。





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