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『お母さんが一緒』橋口亮輔監督 リハーサルの雑談から生まれるものとは 【Director’s Interview Vol.420】

『お母さんが一緒』橋口亮輔監督 リハーサルの雑談から生まれるものとは 【Director’s Interview Vol.420】

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芝居初体験の青山フォール勝ち



Q:今回はベテランから実力派まで人気俳優が揃いましたが、青山フォール勝ちさんだけが異色です。


橋口:タカヒロという役は、ちょっと天然が入っているイイ男にしたかったんです。今どきこの手のキャスティングをするときはキャラクターに関係なくイケメンが提案される。「この人どうですか?」と言われて、「でもこの人売れているんでしょ?」と聞くと、「売れてます」と。「じゃあスケジュール取れないでしょ?」「そうですね。難しいかもしれないですね」「じゃあ持ってこないでよ」となる(笑)。それで、誰がいいだろうな?と。


中川家さんのYouTubeが好きでずっと見ていたのですが、ネルソンズがゲストの回で大喜利をやっていて、ネルソンズ3人全員が見事にスベっていたんです。普通スベったら、それをキャラクターやネタに変えて、「勘弁してくださいよー」と笑いに変える貪欲さがあるもの。でもネルソンズの3人、特に青山くんは、スベっても「あ〜すみません」とただ笑っていて、貪欲さみたいなのものが一切なかったんです。驚いたのですが、あ、でも良いやつなんだろうなと。スベって全然面白くないのに、ただちょっと笑っているだけ。でもその大らかさが、いいやつだなと、僕の中にインプットされていました。


でも撮影の前年、ネルソンズは「キングオブコント」の決勝に行っていて、撮影の年も多分狙うだろうから、スケジュールがダメだろうと思っていたんです。江口さんはたまたま9月が空いていて、古川さんも売れっ子だけど、たまたま9月が遅れた夏休みで空いていた。そしてネルソンズも8月にキングオブコントの予選が終わった後、12月の決勝まで空いていて、たまたまみんな9月が空いていたんです。それでオファーしたら二つ返事でOKとなった。制作スタッフが吉本興業に電話して「ネルソンズの青山さんにぜひドラマに出て欲しいんですけど」と言ったら、向こうは「和田まんじゅうじゃないんですか?」と。「和田じゃないんですか?」「和田じゃないんですか?」って5回聞いてきたらしいです(笑)。その度に「いや、青山さんで!」と言ったそうですが(笑)。



『お母さんが一緒』©2024松竹ブロードキャスティング


青山くんは出演は喜んでくれたのですが、ドラマは初めて。最初は「青山くん、段取りやるよ」と言っても「段取りって何ですか?」という状態。でも僕はびっくりしたんです。芸事の世界でこうやって頭角を現してくる方というのは、DNAの中に何かが入っているのかな?というくらい“出来る”んですよ。例えば、お風呂に浸かってバシャと顔を拭うシーンや、折り鶴を踏むシーンなどは、やり直しが大変だから一回で決めて欲しい。青山くんはそういうところは全部1回で決めるんです。「ここにカメラがあってここがセンターで、この折り鶴を踏みたい」「よーいスタート!」ってやって、それでOK。素人だとセンターかどうかも分らないはずなんです。『恋人たち』(15)では、素人同然の子たちだったからそういうのが出来ないんですよ。何回同じことをやっても動きが定まらない。自分の体をコントロールして芝居をするということが出来ない。訓練を受けてないから出来ないんです。青山くんも芝居は初めてだと言っていましたが、一回でテンポ良くぱっと決める。青山くんはお笑い仲間から「天然、天然」と弄られているから、天然なのかなと思っていましたが、本人はものすごく真面目にやっていましたね。


Q:これまでの橋口作品でもコメディ要素は出てきますが、全編コメディみたいな感じは初めてかと思います。作ってみていかがでしたか。


橋口:今までは、人生にあったいろんなことを都度作品に反映していて、特に『恋人たち』なんかは自分の全体重が乗っかっているようで、圧がすごかった。でも今回は、原作が自分じゃないこともあり、物語を楽しんでもらいたい、役者さんの生き生きとした演技を楽しんでもらいたいということが先にありました。その辺の違いはあるかもしれません。だからすごく見やすいものになっていると思います。


でも“痛み”は絶対作品の中になきゃダメだと思っているんです。例えば、冒頭、江口さんが旅館のロビーに座って自分の手を見て、「はぁ」とため息をつく。ただそれだけのシーンですが、この人ギャーギャー言っているけど、1人でいるときはこうなんだなと、ふと気持ちが持っていかれたりする。鬱陶しい主義主張ではなく、そういったものを入れることによって、作品の中に入ってもらえるように気をつけて撮りました。



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監督/脚色:橋口亮輔

1962年7月13日生まれ、長崎県出身。92年、初の劇場公開映画『二十才の微熱』が劇場記録を塗り替える大ヒットを記録。2作目となる『渚のシンドバッド』(95)はロッテルダム国際映画祭グランプリ、ダンケルク国際映画祭グランプリ、トリノ・ゲイ&レズビアン映画祭グランプリなど数々の賞に輝き、国内でも毎日映画コンクール脚本賞を受賞。3作目の『ハッシュ』(02)は第 54回カンヌ国際映画祭監督週間に出品され、世界69カ国以上の国で公開された。文化庁優秀映画大賞はじめ数々の賞を受賞。『ハッシュ』から6年ぶりの新作となった4作目の『ぐるりのこと。』(08)は、何があっても離れない夫婦の十年を描いて「橋口亮輔の新境地」と各界から絶賛を浴び、報知映画賞最優秀監督賞、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞(木村多江)、ブルーリボン賞最優秀新人賞(リリー・フランキー)など数多くの賞を受賞した。 2013年、62分の中編『ゼンタイ』を発表。『ぐるりのこと。』以来7年ぶりの長編となった『恋人たち』(15)は、第 89回キネマ旬報ベスト・テン日本映画第1位、第70回毎日映画コンクール日本映画大賞、第 58回ブルーリボン賞最優秀監督賞などなど、2015年の日本映画を代表する名作として 数多くの映画 賞を受賞した 。本作は、『恋人たち』以来 9年ぶりの長編となる。



取材・文: 香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。


撮影:青木一成




『お母さんが一緒』

7月12日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開

配給:クロックワークス

©2024松竹ブロードキャスティング

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