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『墓泥棒と失われた女神』アリーチェ・ロルヴァケル監督 マジックはリアリティのなかにある【Director’s Interview Vol.422】

© 2023 tempesta srl, Ad Vitam Production, Amka Films Productions, Arte France Cinéma

『墓泥棒と失われた女神』アリーチェ・ロルヴァケル監督 マジックはリアリティのなかにある【Director’s Interview Vol.422】

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不意に美が湧き起こるための余地を残す



Q:本作は映像もとても特徴的です。ときどきあえて露出過多であったり、あるいは粒子の粗い古い映画のような温もりがあったり、質感もシーンによって異なります。さまざまなフィルムを使い分けたそうですが、そのこだわりについて教えてください。


ロルヴァケル:もともとわたしが監督になろうと思ったのは、自分は文章では表現できないけれど、映像なら語ることができると感じたからなのです。それで映像にはいつもこだわりがあります。でも本作で避けたのは審美的なレトリック、つまり映像美を追求するための映像にはしたくありませんでした。そうではなく、わたしが求めたのは、人生や、生を表現すること。もちろんそこに美は存在しますが、美を追いかけるわけではない。美は我々を驚かせるものです。それが予期せぬ出会いであればあるほど、我々を魅了する。だからそれを探したり、追いかけたりしてはいけない。今日、若い世代の監督たちは、イメージをコントロールすることに執着しすぎて、結果的に自分たちのやり方にがんじがらめになっていると思います。もちろんコントロールもときには必要ですが、「人生」が入ってくるための余地を残しておかなければなりません。不意に美が沸き起こるための余地を。


Q:16ミリカメラから35ミリまでカメラを使い分けたり、ときどき逆さに映したりしたのはなぜですか。


ロルヴァケル:カメラを逆さに使用したのはアーサーのシーンですが、彼は人と異なるパースペクティブを持っているからです。彼は地下にあるものを探知できるし、地下から地上を見たりできる。逆さに映すことで彼の特異な能力を表現しようと思いました。また3つの異なるフィルム(*16ミリとスーパー16ミリ、35ミリ)を使用したのは、それぞれの特性に合わせて異なる質感をもたらしたかったから。35ミリはどっしりとしたフレスコ画のようなスケール感をもたらすし、スーパー16ミリはヌーヴェル・ヴァーグのように、ライブ感を出すときに適している。さらに小ぶりな16ミリ・フィルムは、鉛筆で書いたメモのような淡い記憶を彷彿とさせる。それぞれのシーンに合わせたフィルムを、撮影監督のエレーヌ・ルヴァールと相談して選びました。ルヴァールとは、わたしの最初の長編である『天空のからだ』(11)からずっと一緒に仕事をしてきて、まるで一心同体のように心が通じ合うのです。



『墓泥棒と失われた女神』© 2023 tempesta srl, Ad Vitam Production, Amka Films Productions, Arte France Cinéma


墓泥棒と資本主義について



Q:墓泥棒たちには罪悪感がありませんが、彼らが掘り出したお宝を売り捌く美術商たちとその顧客たちもまた、同じぐらい罪深いことを本作は描いていますね。


ロルヴァケル:劇中に登場する吟遊詩人の言葉通り、「トンバローリは大海の一滴」にすぎないのです。20世紀のヨーロッパのアート市場は、考古学的価値のある財宝が不正取引されていました。墓掘り人たちは、自分たちの土地で過去を掘り起こすことで新しいものを得ようとし、また資本主義社会の体制に反抗して自由に暮らしているような気分でいたかもしれませんが、結局彼らも巨大なアート市場の違法なビジネスの歯車に過ぎなかった。そういうことも、この映画の背景として重要でした。




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監督/脚本:アリーチェ・ロルヴァケル

1981年12月29日、イタリア・トスカーナ州フィエーゾレ出身。ドイツ人の父とイタリア人の母を持つ。トリノとポルトガル・リスボンで学び、劇場での作曲や編集の仕事を経た後、映画に惹かれてドキュメンタリーの編集者として働き始める。2011年、初の長編劇映画で南イタリアのレッジョ・カラブリアを舞台に思春期の少女の葛藤と成長を描いた『天空のからだ』が第64回カンヌ国際映画祭監督週間部門に出品され、各地の映画祭で上映された。自身の体験をもとに養蜂家の家族を描いた『夏をゆく人々』(15)は長編2作目にして第67回カンヌ国際映画祭グランプリを受賞し、現代の聖人ラザロを実際の詐欺事件を通して描いた長編3作目『幸福なラザロ』(19)は第71回カンヌ国際映画祭脚本賞を受賞。北米公開時には、マーティン・スコセッシがその才能を絶賛し、映画完成後にプロデューサーに名乗りを上げた。2015年、ファッションブランド・ミュウミュウの企画で、女性監督が21世紀の女性らしさを鋭い視点で称えるショートフィルムシリーズ「女性たちの物語」の第9弾として「De Djess」を発表。2016年、イタリアのレッジョ・エミリア市立劇場でオペラ「椿姫」を演出。2020年、イタリア国営放送RAIとHBO合作のTV シリーズ「マイ・ブリリアント・フレンド」シーズン2で共同監督を務める。2021年、ピエトロ・マルチェッロ、フランチェスコ・ムンズィと共同監督でティーンエイジャーの目を通して現在のイタリアのポートレイトを掘り下げたドキュメンタリー「Futura」を発表し、第74回カンヌ国際映画祭監督週間部門に出品された。2022年、アルフォンソ・キュアロン監督がプロデューサーとして参加したDisney+オリジナルの短編映画『無垢の瞳』が第95回アカデミー賞®短編映画賞にノミネートされた。世界中の映画人がその才能に惚れ込み、いまやイタリア映画界を代表する監督の一人である。



取材・文:佐藤久理子

パリ在住、ジャーナリスト、批評家。国際映画祭のリポート、映画人のインタビューをメディアに執筆。著書に『映画で歩くパリ』。フランス映画祭の作品選定アドバイザーを務める。





『墓泥棒と失われた女神』

7月19日(金)Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開

配給:ビターズ・エンド

© 2023 tempesta srl, Ad Vitam Production, Amka Films Productions, Arte France Cinéma

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