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『墓泥棒と失われた女神』アリーチェ・ロルヴァケル監督 マジックはリアリティのなかにある【Director’s Interview Vol.422】

© 2023 tempesta srl, Ad Vitam Production, Amka Films Productions, Arte France Cinéma

『墓泥棒と失われた女神』アリーチェ・ロルヴァケル監督 マジックはリアリティのなかにある【Director’s Interview Vol.422】

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心地良く、狐に包まれる、とでも言おうか。アリーチェ・ロルヴァケルの映画は、フェデリコ・フェリーニやピエロ・パオロ・パゾリーニが持っていたようなシュールなユーモアを備えながら、観る者を温かく包み込む。登場人物たちは現代人であってもどこか牧歌的で、寓話の主人公のように見えたりもする。


新作『墓泥棒と失われた女神』で、自身の故郷トスカーナ地方を舞台にした彼女は、この土地に少なくなかった「トンバローリ」と呼ばれる墓泥棒と、地中に眠る古代エトルリア人の墓を探知できる不思議な能力を持った青年の話を通して、神話とリアリティ、ロマンスと活劇が融合した不思議な魅力を放つ物語を織り上げた。そんな彼女に本作の意図を訊いた。



『墓泥棒と失われた女神』あらすじ

80年代、イタリア・トスカーナ地方の田舎町。忘れられない恋人の影を追う、考古学愛好家のアーサー。彼は紀元前に繁栄した古代エトルリア人の遺跡をなぜか発見できる特殊能力を持っている。墓泥棒の仲間たちと掘り出した埋葬品を売りさばいては日銭を稼ぐ日々。ある日、稀少な価値を持つ美しい女神像を発見したことで、闇のアート市場をも巻き込んだ騒動に発展していく…。


Index


過去と現代、冥界と現世のリンク



Q:80年代のトスカーナ地方を舞台にした本作は、イギリスの考古学愛好家のアーサーがイタリアに来て墓泥棒たちの手助けをする、という縦糸と、彼が失った元恋人の行方を追いかける、という横糸が交差する独創的な物語のなかに、さまざまなエピソードが散りばめられていますが、どのように作りあげていったのでしょうか。


ロルヴァケル:成り立ちを説明するのがなんとも難しいですね。わたしの映画はいつもそうなのです(笑)。発想は、墓泥棒から始まりました。というのも、わたしが育った地域には、実際に昔から墓泥棒が存在したので、わたしが子供だった80年代にも、どこかの墓が掘り起こされてお宝が見つかったらしい、といった噂をいつも近所の人たちがしていました。それで自然と、地中にはどんな物が埋まっているのかとわたしも興味を抱くようになり、考古学や古代人について思いを巡らせるようになったのです。そんなわけで本作では、墓泥棒と考古学を愛するキャラクターを結びつけようと思いました。


さらに「過去に囚われた人」というテーマもあります。過去とは、ただ過ぎ去った時代でしかないのか? それとも本質的に現在とリンクするものなのか? このテーマはわたしが『夏をゆく人々』(14)から追いかけてきたもので、そういう点で本作は、『夏をゆく人々』、『幸福なラザロ』(18)に続く3部作の最後にあたります。


Q:原題のキメラ(Chimera)とは、ギリシア神話に出てくる獣と、空想やとっぴな思いつき、という意味がありますね。


ロルヴァケル:ここでいうキメラは、わたしたちが手に入れたいと願うものの決して手に入れられないものを象徴しています。ある人にとってはそれがお金であったり、あるいは社会的な地位であったりする。この映画では、主人公のアーサーは失った最愛の恋人を求め、墓泥棒たちは古代の財宝を夢見る。じつはわたしがアーサーのキャラクターに関してインスパイアされたものに、イタリアの詩人ディーノ・カンパーナの「キメラ」という詩があるのです。これは月明かりのなかで、女性の影、もしかしたら幻想にすぎないかもしれないものを追い求める男性のことを詠ったもので、撮影中わたしとジョシュ(アーサー役のジョシュ・オコナー)は、つねにこの詩を思い出していました。アーサーは地元のイタリア人コミュニティのなかで、単に外国人であるからという以上に異なる存在です。それは彼の心が他の時代、他の場所――地中の冥界に属しているから。彼は、自分の恋人は地中のどこかに居ると信じているのです。



『墓泥棒と失われた女神』© 2023 tempesta srl, Ad Vitam Production, Amka Films Productions, Arte France Cinéma


マジックはリアリティのなかにある



Q:アーサー役にジョシュ・オコナーを選んだ理由は? あなたの映画のファンである彼が、熱のこもった手紙を書いてあなたに送ったと聞きましたが。


ロルヴァケル:そうなんです。じつは脚本を書いているときは、もう少し上の年齢の人物を想像していました。でもジョシュに会って、彼には成熟したところと、どこかオールドスクールなところがあると感じた。考古学と古いものにとらわれている感じがぴったりくると。それからはジョシュ以外には想像できなくなった。彼のおかげで、80年代の物質主義的な世界のなかで居場所を失った、メランコリックでロマンティックな、でもどこか滑稽でもあるヒーロー像が形になっていきました。


Q:新鮮でありながらどこか懐かしいような、不思議な魅力に溢れた作品です。あなたの映画はしばしば「マジックリアリズム」と評されますが、ご自身ではどう思われますか。


ロルヴァケル:それはわたしもよく耳にします。でも自分でそれを意識したわけでも、それを目標にしているわけでもないです。わたしのアプローチは、わたしが現実のなかで見るものに即しています。そしてリアリティのなかにあると、わたしが信じているマジックを掴んで語ることです。ですからわたしが身近に感じる不思議なこと、驚くべきことを、わたしの視点を通して描いているだけで、ことさら何かファンタジックなものを付け加えているつもりはないのです。




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