林海象監督や押井守監督のもとで助監督を務め、押井守総監修の実写オムニバス映画『真・女立喰師列伝』(07)の一編『草間のささやき 氷苺の玖実』を監督し、短編で商業映画デビューした湯浅弘章。以降、撮影監督を務めると共に、監督としてもテレビドラマや、乃木坂46のMV・ショートムービーなど数多くの作品を手掛けてきた。
今回、『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』で満を持して長編商業映画デビューを果たした、湯浅弘章監督に話を聞いた。
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「しゃべれない」ことが、とても映画的だった
Q:この作品はもともと企画があって、監督に声が掛かったそうですが、この企画のどこに惹かれたのでしょうか。
湯浅:もともと押見さんの漫画はすごく好きで、『惡の華』など読んでいました。プロデューサーに紹介してもらった『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』を読んでみて、すごく話がまとまってるなと。漫画自体が1巻で終わっていて、映画として2時間でまとめやすいのと、ストーリー自体にすごく惹かれました。主人公が「上手くしゃべれない」っていうのもすごく映画的だなと思ったんです。
Q:「しゃべれない」ことがですか?
湯浅:ドラマというものは、セリフで色々と説明していくものだったりするのですが、志乃の言葉数が少ないことによって、逆に色々と想像させる演出ができるなと。これはいい映画になるだろうという予感がしたので、ぜひやりたいです!と即決しました。
Q:今回の脚本を手がけた足立紳さんは監督が推薦されたんですよね。
湯浅:そうですね。地元が一緒で、プライベートで会う機会がありまして、足立さんに原作を読んでいただいたら、すごく気に入ってくださって、本人もやりたい!と。それで、ぜひ一緒に!という流れになりました。
Q:足立さんは今すごく人気で、忙しそうですよね。
湯浅:ちょうど『百円の恋』でブレイクしかかっているところだったので、今後絶対忙しくなるなと思い、今だ!とつかまえました(笑)。
Q:脚本段階で足立さんとはディスカッションされたんですか。
湯浅:そうですね。プロデューサーも交えて、漫画から映画にするときにどのように変えていくか、漫画のどこの部分を守るか、その辺のルールを作りながら進めていきました。
Q:漫画から脚本に落とし込む際に、「画」も想像していくと思うのですが、漫画のコマ割りを映画のカット割りとして意識されたのでしょうか。
湯浅:実は、漫画は企画立ち上げ時に1回読んだきりで、それ以降は読んでないんです。読み込むと同じカット割りにしちゃいそうだし、引っ張られるのはちょっと嫌だなと思ったので、あえて読まないようにしましたね。
Q:監督は撮影監督の経験もあるそうですが、今回の画作りに対するこだわりはどこだったのでしょうか。
湯浅:原作は山に囲まれた群馬辺りが舞台だったんです。押見さんの出身地で、海が出てこない所でした。今回映画をやるにあたっては、舞台設定を海辺の漁港の町に置き換えたかったんです。キラキラした美しい海辺に1人ぽつんといる、ちょっと悩んでいる志乃ちゃん。そんなコントラストを作りたいと思っていました。