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『HAPPYEND』空音央監督 ノスタルジーを持って都市を切り取る【Director’s Interview Vol.440】

『HAPPYEND』空音央監督 ノスタルジーを持って都市を切り取る【Director’s Interview Vol.440】

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ノスタルジーを持って都市を切り取る



Q:高速道路や歩道橋など“橋”の使い方も印象的でした。神戸で撮影されたとことですが、ロケ場所はどのように探したのでしょうか? 


空:先日「都市フェチでしょ?」と言われたのですが(笑)、本当にそういうのがあって、都市の写真が好きなんです。普通に歩いていてもよく写真を撮るのですが、大体が歩道橋や高架下だったりします。そういうものを映画に入れた理由は、単純に好きということもありますが、地震がいつ来てもおかしくない世界を描きたかったので、キャラクターたちを取り巻く環境に建造物が大きくそびえ立っている印象を与えたかった。さらに言うと、地震が来たらそれらが崩れてくる可能性を感じるような、圧迫感みたいなものを入れられるといいなと。なるべく空を見せない構図にしたりと、試行錯誤しながら撮りました。また、近未来という設定なので、明らかに現代だと感じてしまう看板やサイネージはなるべく入れずに撮りました。


Q:DPのビル・キルスタインさんにアングル等は委ねられていたのでしょうか。それとも細かくディスカッションされたのでしょうか。


空:ディスカッションした上で撮影しました。ビルが自主的に切り取るカットもありますが、基本的には綿密に話し合ってから一緒に作り上げていきました。ビルは具体的な指示にも対応してくれるのですが、それよりも彼に効果的なのは、感情的で概念的な指示を伝えること。コンセプトについて話し合うと、それを理解し力を発揮してくれる撮影監督です。この映画に関しては、カメラの語り口についての話をしました。ユウタとコウというキャラクターたちが僕らと同じ30代になったときに、自分たちの高校時代を思い出しているかのようにしたかった。だから近未来よりさらに先の未来から振り返っているような、ちょっとノスタルジーを含んだ見方でカメラや照明を置いています。


Q:映画を観ていても感じたのですが、都市の捉え方やノスタルジーの話も含めて、ますます大友克洋の世界に近しいものを感じました。


空:それは嬉しいですね。大友さんの作品は大好きで、中学生の頃は『AKIRA』(88)を見て育ちましたし、『攻殻機動隊』(95)や『ブレードランナー』(82)のようなSFは大好きです。そういうテイストが入ってしまうのは、やはり影響があるのかもしれません。



『HAPPYEND』© 2024 Music Research Club LLC


Q:日常を撮りつつ少し先の未来を描くことは、かなり難しかったのではないでしょうか。世界観はどのように考えられましたか。


空:どれくらい先の未来で、どれくらい馴染みのないテクノロジーが出てくるのかと、いろいろ考えました。相当考えた末に、現存するテクノロジーが社会のインフラとして浸透しているくらい先の未来、というところに落ち着きました。すんなり映画の中に入ってもらいつつも、雲のサイネージなどを入れることによって、これは未来の話だと思い出してもらう。その“異化効果”を使って、どんな未来を描いているか、今と比較して分かるようにしたかった。


Q:影響を受けた、好きな映画や監督を教えてください。


空:僕の中での永遠のアイドル的存在は、エドワード・ヤンです。台湾ニューシネマが本当に好きで、とりわけエドワード・ヤンは大好き。都市の撮影みたいなものは、彼の映画から学ばせてもらった部分が大きいですね。でも同じくらい、ホウ・シャオシェンやツァイ・ミンリャンも好きなんです。


エルンスト・ルビッチやダグラス・サークなど昔のハリウッドも好きですし、ドイツのライナー・ヴェルナー・ファスビンダーも大好き。ジャック・タチのように、コメディ要素が入っているものも好きですね。そのときどきで答えが変わってくるのですが、今挙げた方々は僕の中でアイドルとして存在しています。


Q:エドワード・ヤンには、都市を切り取るロングショットの美学みたいなものがありますよね。


空:そこはエドワード・ヤンに勝る人はいないと思います。都市の切り取り方の正解を打ち出してくれた人だと思いますね。



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監督/脚本:空音央

米国生まれ、日米育ち。ニューヨークと東京をベースに映像作家、アーティスト、そして翻訳家として活動している。これまでに短編映画、ドキュメンタリー、PV、アート作品、コンサートフィルムなどを監督。2017年には東京フィルメックス主催のTalents Tokyo 2017に映画監督として参加。個人での活動と並行してアーティストグループZakkubalan の一人として、写真と映画を交差するインスタレーションやビデオアート作品を制作。2017年にワタリウム美術館で作品を展示、同年夏には石巻市で開催されているReborn- Art Festivalで短編映画とインスタレーションを制作。2020年、志賀直哉の短編小説をベースにした監督短編作品「The Chicken」がロカルノ国際映画祭で世界初上映したのち、ニューヨーク映画祭など、名だたる映画祭で上映される。業界紙Variety やフランスの 映画批評誌Cahiers du Cinéma等にピックアップされ、Filmmaker Magazineでは新進気鋭の映画人が選ばれる25 New Faces of Independent Filmの一人に選出された。今年公開された坂本龍一のコンサートドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto | Opus』では、ピアノ演奏のみのシンプルかつストイックな演出ながらヴェネツィア国際映画祭でのワールドプレミア以降、山形、釜山、ニューヨーク、 ロンドン、東京と世界中の映画祭で上映、絶賛された。本作が満を持しての長編劇映画デビュー作となる。



取材・文: 香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。


撮影:青木一成




『HAPPYEND』

10月4日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

配給:ビターズ・エンド

© 2024 Music Research Club LLC

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