カット割りの意図を汲んでしまう
Q:実際にこの場所で撮影されたそうですが、どのくらいの時間がかかったのでしょうか。
井之脇:2週間くらいかかりました。リハもたくさんあったので、61分の映画にしてはかなり時間を掛けたと思います。
Q:撮影は順撮りだったのでしょうか。
井之脇:基本は順撮りでしたが、七里さんはこだわるので、撮った3日後ぐらいに「もう1回撮り直してもいいですか?」と始まるんです。そういう意味では順撮りではないかもしれません。また、OKシーンも、別のシーンを撮り直したことによって再度撮り直すことになる。一個ずつピースを組み立てながら、気になる点は都度解消しながらやっている感じがありました。コロナ禍で、この場所がずっと貸し切りだったからこそ出来たのだと思います。その点では驚くほど贅沢な撮影でしたね。
『ピアニストを待ちながら』井之脇海
Q:演劇的だったという意味では、撮影でもカットを割らず長回しだったのでしょうか。
井之脇:カット割は決まっていて、アングルを切った上で、シーンの最初から最後まで一通りやる感じでした。後半の長いシーンはブロックごとに分けましたが、それでもかなり長くカメラを回していました。まさにデジタルの特権ですね。フィルムだと破産しちゃうなと(笑)。
Q:自身が監督も経験されている井之脇さんは、監督としての視点で演出を見ることはありますか
井之脇:現場にいるときはなるべく役者に徹したいのですが、良くも悪くもカット割りの意図を汲もうとしてしまいます。もちろん考えてしまうからには、それを生かした上で演じたいと思いますが、さすがにカットの使いどころまでは考えないようにしないとなと。それでも、相手のリアクションが欲しい画では、強く印象づけるアクションをこちらから起こしてあげた方が、カットの切り返し的にいいかな…など、ついつい考えてしまいますね。今回の現場では、かなり長いことカメラを回していたので、上がりを見ると想像とは大分違っていました。まさかジャンプカットが使われているとは思わなかったですし、見ていて面白かったですね。