憧れの人、カラックス
Q:最初に作られた45分版と今回の劇場版(61分)で印象は変わりましたか。
井之脇:結構変わりました。45分版の方は「この世界は一体何なんだ?」という不思議さや、勢いみたいなものがありましたが、今回の劇場版では尺が伸びた分、人物の機微を丁寧に汲み取った感じがしました。今回は音楽もじっくり時間をかけて作れたと思うので、そこのこだわりも感じましたね。劇場で観る意味がより膨らんだなと思います。
Q:脚本と完成した映画で、違いは感じましたか。
井之脇:僕らはそもそも30分くらいの脚本の認識でいて、完全には完結しない作品だと思っていました。それが45分版となり、61分版になったわけですが、ちゃんと映画として完結させたなと。初見だと難解に感じるかもしれませんが、大事なセリフはちゃんとカットを割って見せていますし、丁寧に分かりやすく作っている。不条理な世界で、考え、争い、もがいている人たちは、ある意味愛おしく思えましたし、映画としても面白かったです。
『ピアニストを待ちながら』©合同会社インディペンデントフィルム/早稲田大学国際文学館
Q:影響を受けた好きな映画や監督を教えてください。
井之脇:最近はケリー・ライカートが好きですが、やっぱり…、カラックスですね。人物の切り取り方含めて、芝居も画も全てがカッコいい。僕はあの世界観に憧れて、この世界に入ってきました。これまで色々な監督にお会いさせていただきましたが、カラックスに会ったときだけは泣いちゃいましたね。以前『アネット』(21)で来日したときは、ありとあらゆる手を使って舞台挨拶のチケットを手に入れました(笑)。それで映画館に行ったら知り合いの役者が数名いて、その中の一人が「俺、この後カラックスに会うよ」とか言い始めたんです! それで一緒について行って、、泣いちゃったというわけです(笑)。実際に会うと、いい意味でカッコつけてる人でしたね。だってボロボロのコート着て渋谷を歩いているんですよ。絶対気づいて欲しいって格好してるんです(笑)。
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井之脇海
1995年生まれ。神奈川県出身。‘08年、『トウキョウソナタ』(黒沢清監督)で第82回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞ほか複数の賞を受賞。’18年、監督・脚本・主演を務めた『3Words 言葉のいらない愛』がカンヌ国際映画祭ショートフィルムコーナー部門に入選。近年の主な出演映画に『護られなかった者たちへ』(21/瀬々敬久監督)、『ONODA 一万夜を越えて』(21/アルチュール・アラリ監督)、『ミュジコフィリア』(21/谷口正晃監督)、『猫は逃げた』(22/今泉力哉監督)、『とんび』(22/瀬々敬久監督)、『犬も食わねどチャーリーは笑う』(22/市井昌秀監督)、『almost people』(23/加藤拓人監督)、『バジーノイズ』(24/風間太樹監督)などがある。25年放送大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」への出演も控える。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
ヘアメイク:AMANO
スタイリスト:坂上真一(白山事務所)
『ピアニストを待ちながら』
10月12日(土)シアター・イメージフォーラム他にて全国順次公開
配給:合同会社インディペンデントフィルム
©合同会社インディペンデントフィルム/早稲田大学国際文学館