撮らないという選択
Q:撮影前に半年ほど施設に通い、顔見知りになった上で撮影を始めたそうですが、彼らにカメラを向けることに躊躇は無かったですか。
竹林:もちろん躊躇はあります。前回の『14歳の栞』では中学校のクラスに入って撮影しましたが、今回は子供たちが暮らすところに入り、日常やオフの姿を撮っていくことになる。どうしても「我々はここにいるべきなのだろうか?」みたいな気持ちになってしまいました。
子供たちとはゆっくりと顔見知りの関係になっていったのですが、撮影を続けていくと、他のみんなには言わないような気持ちを話してくれることにもなる。最初は「もっと撮った方がいいのでは」と思いましたが、子供たちが「もう嫌だ」と言ったら、それ以上は追わないようにしました。「これを撮らせてほしい」「こういうところを撮りたい」となってしまうと、どうしても追い続けてしまう。その引き際といいますか、子供たちが安心してくれるような撮り方に落ち着くまでは、いろんな試行錯誤がありましたね。
Q:カメラは子供たちに自然と寄り添っていますが、彼らが感情的になる瞬間もあったと思います。撮ってみていかがでしたか。
竹林:そういう瞬間に僕がいるとすぐに「撮影やめろ」と言うらしく、カメラマンに「監督がいない方が撮れる」と言われました(笑)。僕は「もうこれ以上はやめよう」ってすぐ言っちゃうんです。でも心理状態の持って行き方って本当に肝心で、子供たちの気持ちをどう撮ればいいのか。スタッフ全員すごく葛藤しながら撮影していました。
子供たちは施設を出た後が勝負なんです。だからそのときに振り返ってほしい大事な瞬間を捉えようと、それを1番のプライオリティにしていました。そのルールは撮影から編集まで必ず守るようにしました。子供たちにもそのことを伝えた上で撮っていたので、向こうもそういうマインドで見せてくれたものがあるかもしれません。
『大きな家』©CHOCOLATE
Q:子供たちとの対話部分に関して、監督はどのようなスタンスで撮影に臨まれたのでしょうか。直接対話されたのか、それともレンズ・カメラ越しに対話されたのでしょうか。
竹林:すごく少人数のスタッフだったのでそこは流動的でした。僕は会話だけに集中してカメラマンに撮ってもらうこともありましたし、僕がカメラを持ちながら会話したこともありました。個人的にはそれぞれの子供たちと一つの人間関係を作りたかったし、撮影させて欲しいから一緒にいるとは思って欲しくなかった。だから「撮らないで欲しい」と言って来たときは撮らないし、ずっとカメラを回すようなことはしませんでした。撮らないという選択をどこまで出来るか、その勇気も必要でしたね。
撮影も後半になってくると、訪ねた瞬間に「今日何時まで?」と聞かれ2時間くらい撮ったあたりから「もうカードゲームにしよう」と言われ、その後ずっとカードゲームをしていたこともありました(笑)。そういう撮っていない時間がどんどん長くなっていきましたね。