映画として成立させたい
Q:全体的なルックやインサートされるイメージショットなどは、従来の日本のドキュメンタリーとは一線を画している印象があります。そこにこだわる理由があれば教えてください。
竹林:ルックはできるだけ重視していて、RAWデータで撮るようなスタイル*にしています。僕はコマーシャル出身ですし、スタッフも同じ。そういう撮り方を自然と選んでしまう感じはあるかもしれません。
『14歳の栞』のときもそうでしたが、それぞれの子供のストーリーをオムニバスのように繋げていても、2時間続けてスッと観られる方がいい。映画として成立させたいという気持ちがすごくあります。観ている子どもが自分自身を見て、映画の主人公になっていると感じてくれるように、没入感みたいなものも作りたい。だから音に関しても5.1チャンネルにして臨場感があるように仕上げました。
*:編集時に映像の色調を調整する前提で撮影する方式。撮影した映像はそのままでは使用できず必ず調整が必要となるが、豊かな色調表現が可能となる。
Q:ドキュメンタリーを撮っている前提はあるものの、一方で映画を撮っている感覚もあるのですね。
竹林:劇映画の脚本術を構成に取り入れたりもしていまして、やっぱり映画として観てもらいたいというのは相当大きいですね。
『大きな家』©CHOCOLATE
Q:実際に撮った“生のもの”に対してフィクション(演出)を入れることに難しさはありましたか。
竹林:ドキュメンタリーの映像に演出されたカットを入れる意義については、本当に入れるべきか結構悩みました。映画の冒頭にお母さんのお腹の中から出てくる映像を作りましたが、それは実際に子供が話してくれたことの映像化です。施設に来たことと、お母さんから生まれてきたことは切り離せないし、切り離したくない。葛藤した挙句、演出した映像を作りました。
Q:劇映画も撮られていますが、今後はドキュメンタリーとどちらに比重を置かれるのでしょうか。
竹林:ドキュメンタリーでいろんなところに行っていろんな方の話を聞くのがめちゃめちゃ好きで、役得だなと思いながらドキュメンタリーをやってきました。映画も好きで脚本の勉強もしましたし、元々は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)みたいな映画が大好きなんです。劇映画とドキュメンタリーでは違う思考回路が必要かと思っていましたが、劇映画の脚本もドキュメンタリーの構成も一緒になってくるものがある。今回のインタビューでも、葛藤の見つけ方みたいなところは脚本の書き方がヒントになったところがあります。
劇映画とドキュメンタリーの間のような、例えば『ノマドランド』(20)みたいなものは、脚本がありながらも実際の人が出ていて、すごく美しい映画になっている。ああいった融合のさせ方をやってみたいですね。
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監督:竹林亮
CM監督としてキャリアをスタートし、JICAの国際協力映像プロジェクトや様々なドキュメンタリー番組を手掛け、同時にMV、リモート演劇、映画等、活動範囲は多岐にわたる。2021年3月に公開した⻘春リアリティ映画『14歳の栞』は1館からのスタートだったが、SNSで話題となり45都市まで拡大した。監督・共同脚本を務めた⻑編映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(2022年公開)は、第32回日本映画批評家大賞にて新人監督賞・編集賞を受賞。同作はシッチェスカタロニア国際映画祭ニュービジョンズ部門にノミネート、ヴヴェイ・ファニー国際映画祭でグランプリを受賞するなど、国際的な評価を得ている。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『大きな家』
12月6日(金)東京・ホワイトシネクイント、大阪・TOHOシネマズ梅田、名古屋・センチュリーシネマ、12月20日(金)全国順次公開
配給:PARCO
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