![『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』ペドロ・アルモドバル監督 人間は自分の人生における主であるべき【Director’s Interview Vol.469】](https://cinemore.jp/images/58d78a095abad508b969290f489b95af042ca3b711d1f2786f96f35f634f32a9.jpg)
©2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. ©El Deseo. Photo by Iglesias Más.
『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』ペドロ・アルモドバル監督 人間は自分の人生における主であるべき【Director’s Interview Vol.469】
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人間は自分の人生における主であるべき
Q:安楽死のテーマにも繋がりますが、マーサは死を自ら操ることで犠牲者ではないと言えますね。
アルモドバル:個人的な考えを言えば、安楽死は人間にとっての権利だと思います。人間は自分の人生における主(あるじ)であるべきだし、同様に、自分の死についても主であるべきだと思う。これはさまざまな国で議論になっている重要なテーマで、それゆえに映画でこのように安楽死を扱うことは大切だと思ったのです。
Q:本作ではまた、女性の友情と、母と娘というテーマも重要です。とくに危険を侵してマーサの頼みを聞くイングリッドのサポートぶりは感動的です。
アルモドバル:この映画はマーサとイングリッドのラブストーリーでもあります。わたしが「ラブ」というとき、それは友情の根源的なことも含まれています。彼女の寛大さ、マーサへの共感、彼女を助けたいという深い友情を描きたかったのです。イングリッドの行為は、わたしたちは他人に対しどんなことができるのかという象徴です。今日、わたしたちはとても危険な政治的変化の中に置かれています。多くの人が悲観的で、否定主義に染まっている。本作は、この混乱した世界の中でわたしたちがいまできることは何なのか、ということの問いかけとも言えます。
マーサと彼女の娘については、最初から母と娘のパラドックスを描きたかった。母と娘のあいだにはわだかまりがあり、娘を登場させることで、マーサのふたつの異なる顔が見える。母には理解しえないことも、イングリッドなら理解できることもある。彼女の存在が、母と娘のスピリチュアルな距離を近づけるとも言えるのです。
『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』©2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. ©El Deseo. Photo by Iglesias Más.
Q:あなたの作品ではカラフルな色彩の装飾と、しばしばレファレンスとしてアート作品が用いられますが、今回のセレクションの基準を教えてください。
アルモドバル:映画がセンチメンタルになったり、あるいは装飾過多に感じられるものになるのは避けたかったのですが、それでも自分の好きなカラーパレットを変えることができなかったのです(笑)。わたしの映画で赤はとても重要ですが、ここではマーサの華やかな過去や彼女のバイタリティ、生のエネルギーを表しています。マーサは自分の人生の主であろうとするので、暗い色は使いたくありませんでした。
またアート作品に関してですが、もちろん自分の好きなものをアットランダムに取り入れているわけではなく、場面場面で深い繋がりがあると思えるようなものを選んでいます。ひとつだけ例外的なものは、マーサが赤い口紅を塗るクローズアップのシーンで、あれはティルダの案ですが、わたしと彼女が大好きなマイケル・パウエルの『黒水仙』(47)へのオマージュです。
Q:本作のマーサ役はティルダを念頭に書かれたものですか。
アルモドバル:はい、『ヒューマン・ボイス』での経験がとにかく素晴らしく、彼女とはケミストリーを感じました。それ以来、ずっと親交を温めています。一方、イングリッド役にはティルダととても異なる感じの俳優が欲しかった。だからジュリアンに演じてもらうことができて最高でした。ふたりとも、本当にわたしの望むもの、映画のトーンを理解してくれた。だからコミュニケーションの問題もなく素晴らしい結果を得られて、わたしはとても恵まれていたと思います。
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監督/脚本:ペドロ・アルモドバル
1949年生まれ。長編映画監督デビュー後、独特なストーリーと世界観、強烈な色彩感覚が世界的に評価され、国内外に熱狂的なファンを獲得。『神経衰弱ぎりぎりの女たち』(86)でベネチア国際映画祭 脚本賞を受賞。『オール・アバウト・マイ・マザー』(98)でアカデミー賞外国語映画賞、カンヌ国際映画祭監督賞など数多くの賞を獲得。続く『トーク・トゥ・ハー』(02)もアカデミー賞脚本賞に輝き、世界的巨匠と呼ばれる映画監督のひとりとなる。近作の『ペイン・アンド・グローリー』(19)では、カンヌ国際映画祭でアントニオ・バンデラスが主演男優賞を受賞、さらにアカデミー賞で2部門(国際長編映画賞・主演男優賞)にノミネートされるなど、各国から絶賛され高い評価を受けた。
取材・文:佐藤久理子
パリ在住、ジャーナリスト、批評家。国際映画祭のリポート、映画人のインタビューをメディアに執筆。著書に『映画で歩くパリ』。フランス映画祭の作品選定アドバイザーを務める。
『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』公開中
配給:ワーナー・ブラザース映画
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