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『TATAMI』ザーラ・アミール監督 敵と教え込まれたイスラエルの監督と映画を撮った理由【Director’s Interview Vol.477】
むしろフランスでバッシングを受ける屈折した現実
Q:あまり政治的テーマが押し出されるのも困りますか?
アミール:私自身、「映画でテーマを伝えたい」とか「映画からメッセージを受け取りたい」とは思わない。映画はシンプルに芸術だと捉えてほしいという考えです。ただ確かに、どんな映画を作ろうとか、どんな役を演じようかと決める際、それが平和のために影響を与えるかは考慮しますね。『TATAMI』は、イスラエル人、イラン人、グルジア人、アメリカ人が協力して作った芸術で、国境を超えた仲間が平和のメッセージを送ろうとしているところに注目してほしいです。
Q:インタビューの最初に、共同監督を引き受けることでイランの家族や友人への危害を心配されていましたが、その後、何か起こりましたか?
アミール:じつは数週間前に、イランで『TATAMI』を観るチャンスが生まれたようで、良いリアクションがあったと連絡を受けています。
『TATAMI』© 2023 JUDO PRODUCTION LLC. ALL RIGHTS RESERVED
Q:国の体制を批判する側面もある『TATAMI』の上映も問題ないのですね。一般市民の意識は、国のそれとは大きく違うのでしょうか?
アミール:イランは、国の体制としてイスラエルを敵視していますが、人と人は友達である感覚が浸透しています。同じ文化を持つ中東の人間として、別の地域に生まれたら家族だったかも……という感覚ですね。私自身、ガイの家族や親戚に会った時に、イスラエルの文化を身近に感じることができました。『TATAMI』がヴェネチア国際映画祭で上映された際に、イラン政府が何かを言ってくるのではないか、私の家族に危害がおよぶかも、という不安があったのですが、幸い何も起こらなかった。もしかしたら現在の政府が、芸術に対して寛容な態度へと変わりつつあるのかもしれません。
Q:それは良い兆しです。では結果的に何もリスクは負わなかったのですね。
アミール:実はここフランスで暮らすイラン系の人から、「なぜイスラエル人と映画を作るのか。ボイコットするべきだ」と怒りをぶつけられたりします。そこに温度差を感じますね。
Q:『聖地には蜘蛛が巣を張る』も『TATAMI』も、イラン出身という過去を背負って取り組んだ映画です。今後もその方向で作品表現に関わっていくのでしょうか。
アミール:これからもずっと、私はイラン人のアイデンティティからは離れられないけれど、創作の仕事では、そこから離れて自由に表現したい。それが私の本音です。
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共同監督/キャスティング・ディレクター/マルヤム・ガンバリ役:ザーラ・アミール
1981年7月9日、イラン、テヘラン生まれ。女優、映画監督、プロデューサー。大学で演劇芸術を専攻後、人気TVシリーズ『Nargess(英題)』(06-07)などで活躍し、国民的女優として成功を収めていたが、第三者による私的なセックステープの流出によってスキャンダルの被害者となり、2008年にイランからフランスへ亡命する。2017年、ロトスコープアニメ映画『Tehran Taboo(英題)』が第70回カンヌ国際映画祭でプレミア上映され、国際的な注目を集める。2018年には『Bride Price vs. Democracy(原題)』の演技で、第6回ニース国際映画祭の最優秀女優賞を受賞。さらに世界49以上の映画祭で上映された鬼才アリ・アッバシ監督の『聖地には蜘蛛が巣を張る』(22)で主役のジャーナリスト役を演じ、第75回カンヌ国際映画祭女優賞に輝いた。主な出演作にドゥニ・メノーシェと共演した『越境者たち』(22/ギョーム・レヌソン監督)、ケイト・ブランシェットが製作総指揮を務めた『Shayda(原題)』(23/ヌーラ・ニアサリ監督)など。本作『TATAMI』では、監督のマルヤム・ガンバリ役を演じながら、共同監督、キャスティング・ディレクターを兼任。2019年には自身の制作会社「アランビック・プロダクション」を設立。またイギリスの公共放送局BBCのプロデューサー兼監督としても活躍し、ペルシア支部の文化プログラムを監修している。2022年にはBBCの「100人の女性」に選ばれ、世界で影響力のある女性の1人として、多岐にわたり活躍している。
取材・文:斉藤博昭
1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。クリティックス・チョイス・アワードに投票する同協会(CCA)会員。
『TATAMI』
新宿ピカデリーほか全国公開中
配給:ミモザフィルムズ
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