関西弁ネイティブへのこだわり
Q:鈴木亮平さん、有村架純さんをはじめ、メインキャストの多くは関西出身者で固められています。
前田:関西弁って結構難しいので、最初からネイティブな方に頼む想定でした。京都と大阪でも違うし、大阪の中でも北と南ではニュアンスが違ってくる。鈴木さんも有村さんも兵庫出身なので、そこもまた違うのですが、ベースに関西弁があると入りやすいしチューニングもできる。二人は見事にはまりましたね。兄と妹のキャラクターにも合っていたし、二人だからこそ成立できたと思います。どちらが欠けてもうまくいかなかったんじゃないかな。
他にも、「じゃりン子チエ」が大きくなったような駒子(ファーストサマーウイカ)や(笑)、レジェンドであるオール阪神巨人さんに来ていただいたのも大きかったですね。しかもコンビとしてではなく、それぞれの役として出演してくださったのが良かった。キムラ緑子さんも六角精児さんも関西出身ですし、酒向芳さんは関西に近い岐阜出身、そういう人たちが結集してくれて自然に演じてくださった。現場の雰囲気もすごく良かったですよ。
『花まんま』Ⓒ2025「花まんま」製作委員会
Q:鈴木さん、有村さんからは細かいところまで質問があったそうですが、お二人とのやりとりはいかがでしたか。
前田:疑問点があれば言ってもらいますし、答えが出なかったら一緒に考える。僕自身も「もっと何か出来ないかな」と現場で常にチューニングしています。皆さんプロの俳優ですから、こちらがお願いしたことは自然にできます。でもそれ以上に、役になっている俳優自身から出た言葉や思いが一番強いんです。それが出るように水を向けていく、つまりそういう場を作っていくことが大事。それには、主人公が住んでいる美術セットなどの環境も大きく影響してきます。そこにずっといれば、親しみが湧いて本人としての思いも自然と出てくるようになりますから。
良い脚本は、しっかりと根を張っていて太い幹があり、そこに葉が生い茂っている。その生い茂っている葉を剪定することが、監督の仕事だと思います。脚本がしっかりしていればしているほど、剪定のしがいがあるし自由にレイアウトもできる。そしてその作業は、俳優と一緒にやった方が楽しい。映画は生き物なので、当初イメージしていたものからどんどん変化していきます。だから出てくる発想は生かしたいし、そういった皆の思いが映画を豊かにしていく。それが演出だと思っています。
Q:目頭が熱くなるエピソードだけでなく、コメディ要素も常に挟み込まれてきます。緊張と緩和の緩急が絶妙でした。
前田:笑いと悲しみは表裏一体。それが基本だと思いますし、そもそも関西という土壌がそういう場所。ケンカが強い奴でもなく、スポーツができる奴でもなく、頭がいい奴でもなく、人を笑せたら一番エラいという環境で育ってきましたから(笑)。そういった感覚が子供の頃から染みついていますね。大人になってからは、桂枝雀師匠が研究されていた落語の文献なども読んでいたので、その辺も少しは生かされているかもしれません。でも何よりも大きいのは、関西ネイティブな俳優さんが集まってくれたこと。皆さんが丁々発止やる中で出てきたものもたくさんありました。
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監督:前田哲
撮影所で大道具のバイトから美術助手を経て助監督となり、伊丹十三、滝田洋二郎、大森一樹、崔洋一、阪本順治、周防正行らの監督作品に携わる。1998年相米慎二監督のもと『ポッキー坂恋物語 かわいいひと』(98)で劇場映画監督デビュー。エンタテイメントに軸足を置きつつ、独自の視点や社会派題材を入れ込む作家性と、登場人物たちを魅力的に輝かせることで観客に届く作品に仕上げる職人気質を併せ持つ。 【主な作品】『sWinG maN』(00)、『パコダテ人』(02)、『陽気なギャングが地球を回す』(06)、『ドルフィンブルー フジ、もういちど宙(そら)へ』(07) 『ブタがいた教室』 (08)、『極道めし』(11)、『王様とボク』 (12) 『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』 (18) 『ぼくの好きな先生』 (19) 『そして、バトンは渡された』(21)、『老後の資 金がありません!』(21)、『ロストケア』(23)、『水は海に向かって流れる』(23)、『大名倒産』(23)、『九十歳。何がめでたい』(24)など。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『花まんま』
公開中
配給:東映
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