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チャッピーとロボコップ ニール・ブロムカンプのディストピア【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.8】

チャッピーとロボコップ ニール・ブロムカンプのディストピア【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.8】

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エイリアンもロボットも人間も「自分」を探す





 

 ギャングたちによって惨殺されるも、死体を利用したサイボーグとして復活したマーフィは、断片的に残っている「生前」の記憶に戸惑い、自分がもともと何者だったのかを知ろうとする。それによりロボットのプログラムと警官の義務、そして人間マーフィの意識との間で葛藤が起こる、というのが『ロボコップ』の物語の根幹でもる。自分を手に入れよう、奪われた自分を取り戻そうという戦いは、『 第9地区』にも『 チャッピー』にも通じている。


 感染により身体がエイリアン化し始めた『 第9地区』の主人公ヴィカスは、難民エイリアンを管理する支配者の側から転落し、当局の追跡を逃れてエイリアンたちのスラムに身をひそめる。エイリアンと協力をせざるを得なくなってからも、自分本位な彼はあくまで自分は人類で、不気味なエイリアンとは違うということを主張し続ける。そして必死に元の身体に戻る方法を探し、すがり、陰謀によって奪われた以前の人生を、人類の自分を取り戻そうとする。


 高い知性と学習能力を与えられて生まれたチャッピーは、人間の子どものように物事を学習していく。しかし、廃棄寸前のボディを使ったために破損したバッテリーは交換不能、そして残りもわずかだった。生まれたばかりでありながら「死」を目前にしたチャッピーは、自分の意識を保存する方法を探し、完全な自分自身を手に入れようとする。


 ヴィカスもチャッピーも、少しずつマーフィと近い境遇なのだ。生まれたばかりのロボットであるチャッピーと、ロボットに改造されて生まれ変わったマーフィ。エイリアンに変身して自分とその人生を失ったヴィカスと、同じように異形の姿にされて全てを奪われたマーフィ。


 ブロムカンプの2本の代表作には、すでに『ロボコップ』の部品が組み込まれていたのだ。ここまで新作のメガホンを取るのに相応しいひともいないのではないだろうか。いざ『ロボコップ』そのものを描くとき、彼はそこにどんなものを込めるのだろう。やはり、すでに何か大事件が起こった後であることを示唆するような関係者や専門家たちのコメントを映すドキュメンタリーから始まるのだろうか。


 いずれにせよ生々しく強烈なディテールによって、灰色のデトロイトを彩ることだろう。


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イラスト・文:川原瑞丸

1991年生まれ。イラストレーター。雑誌や書籍の装画・挿絵のほかに映画や本のイラストコラムなど。「SPUR」(集英社)で新作映画レビュー連載中。 

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