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チャッピーとロボコップ ニール・ブロムカンプのディストピア【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.8】

チャッピーとロボコップ ニール・ブロムカンプのディストピア【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.8】

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マーフィからチャッピーへ、ロボットたちの動き方




 

 ロボット警官が主題である『 チャッピー』は、すでにブロムカンプ版『ロボコップ』と言えるだろう。ハイテクではあるがスマート過ぎず、無骨なボディに汚れや傷があり、どこかフィル・ティペットによるストップモーションのようなぎこちなさを残したチャッピーの姿は、ブロムカンプのロボットへの愛さえ感じさせる。チャッピーをモーションキャプチャで演じたシャールト・コプリー(『第9地区』の散々な主人公も彼だ)の挙動もまたおもしろく、無表情であるはずの金属体に表情や温かみを持たせている。親代わりのギャングたちゆずりのチンピラ歩き(?)なんか見た目とのギャップもあってとても可笑しい。


 一方、その祖先に当たるロボコップもまた印象的な歩き方をする。独特な機械の足音は今こうしていても聞こえてくるようだ。デトロイトにはびこる悪党たちはその足音に恐怖したが、確かにかっこよさやおもしろさと同時に、不気味さもある。足音はともかく、その代名詞的な歩き方は実は演じたピーター・ウェラーが特訓の末に自分で編み出したもの。独特過ぎて誰も真似できなかったため、危険なスタントシーンもウェラー自身がこなさなければならなかったほどだ。


 ぼくが特に好きな『ロボコップ2』(1990年)は、ポール・バーホーベンに変わってアーヴィン・カーシュナーが監督し、『 スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(1980年)と同様に名続編として仕上げた作品だが、新たな悪役であるロボコップ2号ことケインの造形や動き方も忘れられない。


 前作でサイボーグ警官になったばかりのマーフィの前に立ちはだかった二足歩行兵器ED-209よりもずっと悪夢的なデザインのケインは、ED-209と同じくフィル・ティペットのティペット・スタジオによるストップモーションで動かされる。旧ドイツ軍のヘルメットを思わせる頭部、巨大な逆三角形のボディ、人間の頭をつかんで潰してしまう大きな爪のついたアーム、次々に繰り出される武器や銃火器……。逆関節の脚が、グウィーンガチ、グウィーンガチ、とものすごい音を立てて、大きな胴体を揺らして動く様は、バランスを取ることに一生懸命で一見可笑しくもあるのだが、すぐに画面を覆う大きさに圧倒され、火力の強さや容赦の無さですぐに考え直すことになる。図体の大きい敵役は、どうせやられてしまうというセオリーをどれだけ知っていようと、こいつには敵わないのではないかと恐怖を覚えてしまう。観るたびに。


 フィル・ティペットは『スター・ウォーズ』シリーズへの参加でキャリアを築き上げたわけだけれど、『エピソード5/帝国の逆襲』に登場する巨大な歩行兵器AT-ATもまた彼によるストップモーションで雪原を歩いている。細かい機構を動かしながら大きな足を踏み出す巨大なウォーカーを生み出した技術は、10年後に再びカーシュナー監督のもとで恐ろしいマシーンを生むことになるのだ。


 このようにロボットはヌルヌルと滑らかに動くよりは、ストップモーション的なカクカクガチャガチャというぎこちなさが、どこかに残るのものの方が、似合う。そんなロボットらしい歩き方を、自分の身体で表現してしまったウェラーのすごさが、改めてわかる。



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