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『かたつむりのメモワール』アダム・エリオット監督 手作りのストップモーションに惹かれるのは人間の本能【Director’s Interview Vol.498】

©2024 ARENAMEDIA PTY LTD, FILMFEST LIMITED AND SCREEN AUSTRALIA

『かたつむりのメモワール』アダム・エリオット監督 手作りのストップモーションに惹かれるのは人間の本能【Director’s Interview Vol.498】

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8年もかかった長編は母国の手厚い援助も



Q:ウェス・アンダーソン監督の『犬ヶ島』(18)やアカデミー賞を受賞した『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』(22)など、近年のストップモーション・アニメの中で、あなたの作風はどんな個性があると考えていますか?


エリオット:『犬ヶ島』や『ピノッキオ』はモデルの動きが流動的で、作品全体も洗練されたエレガントな印象ですよね? 私の作品を表現するなら「チャンキー・ウォンキー」です。チャンキー(chunky)とはブヨッとした感じ。ウォンキー(wonky)は不安定。ですから小道具のテーブルも直線ではなく、歪んだラインで作ったりします。かなりトリッキーであり、この不規則なスタイルの追求は難しく、時間も要します。


Q:キャラクターの顔のパーツもどこか不規則ですが、どれくらいの数のパーツが用意されたのですか?


エリオット:キャラクターのモデルの大きさは30cmくらい。グレースの場合、口のパーツは約20種類。たとえば「こんにちは、グレースです」と話すだけで15種類ほど必要になります。瞳は小さな磁石になっていて、向きを操作できます。1回のまばたきを撮るのに、だいたい2時間かかりますね。髪の毛は頭部に小さな穴を開け、1本ずつ植えます。子供時代から大人になるまでグレースのモデルは12種類のバージョンを作りました。それに合わせてパーツや髪の毛も増えるので、かなりハードな作業でしたね。



『かたつむりのメモワール』©2024 ARENAMEDIA PTY LTD, FILMFEST LIMITED AND SCREEN AUSTRALIA


Q:『かたつむりのメモワール』は完成までに8年もかかったそうですが、その話を聞くと製作期間の長さも納得できます。


エリオット:撮影期間のみに絞れば33週間(8ヶ月弱)です。7人のアニメーターがそれぞれ1日で5秒から10秒くらいの映像を完成させました。このペースは、ストップモーションの撮影では速い方ですよ(笑)。撮影前に200種類のキャラクターと200のセット、700個の小道具を作るのに、約16週間。そして撮影後の編集、録音、音楽を合わせるポストプロダクションに8ヶ月かけました。これらすべてを合わせると2年近くになりますが、その前に脚本執筆で3年、資金集めに3年かかっていますから、合計で8年です。本当なら3年か、せめて5年で完成させたかったのですけど。


Q:こんなことを聞いて失礼かもしれませんが、8年もの間、1本の映画に時間を費やし、生活は成り立っていたのですか?


エリオット:私が拠点にするオーストラリアでは、政府からの製作援助が手厚いのです。『かたつむりのメモワール』では脚本を16回も書き直していますが、その草稿ごとに援助金が受け取れます。オーストラリアでは長編映画が年間で20本くらいしか作られないので、それくらい援助政策が整っていないと映画産業が成り立たなくなるんです。


Q:ある程度、実績を積んだクリエイターが援助を受けられるのですよね?


エリオット:そうです。私の場合、前作の『メアリー&マックス』が興行的に成功し、作品自体が高い評価を受けました。この高評価という部分が、文化支援で有効なのです。オーストラリアでは政権が保守派になっても、リベラル派になっても、政府の芸術への姿勢は変わりません。『かたつむりのメモワール』にはフランスやイギリスなど合計で9カ所の団体から製作費を集められましたが、メインとなっているのはオーストラリアの税金です。




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