
©2024 ARENAMEDIA PTY LTD, FILMFEST LIMITED AND SCREEN AUSTRALIA
『かたつむりのメモワール』アダム・エリオット監督 手作りのストップモーションに惹かれるのは人間の本能【Director’s Interview Vol.498】
この世を去る時に遺産として残る作品を目指して
Q:『かたつむりのメモワール』には、実写の名作へのオマージュも溢れています。監督としてどのような映画にインスパイアされるのですか?
エリオット:じつはアニメーションはあまり観ません。ディズニーの作品など興味が湧かないのです。そんなことを公言してはいけませんが……(笑)。実写映画やドキュメンタリーはいっぱい観ます。ちょうど先日、DVDを整理していて『東京物語』(53)を観直したくなりました。同じように私も10年後、15年後にまた観たくなる映画を作りたい。自分がこの世を去る時、「遺産」として後の世代に残せることが理想なんです。『かたつむりのメモワール』は1970年代が背景ですが、このように過去を描くことでクラシックな雰囲気をまとい、長く愛される可能性が高まると思うのです。そしてインスパイアされる作家を挙げるなら、デヴィッド・リンチやジャン=ピエール・ジュネでしょうか。
Q:たしかに本作は、オープニング映像などにジュネの影響を感じられます。
エリオット:『アメリ』(01)は大好きな映画です。本作のオープニングは『デリカテッセン』(91)のカメラワークを意識しました。じつはジャン=ピエールは友人で、今回のオープニングに関してアドバイスをもらいました。まず映画を観る人に本作がすべて手作りだと予告すること。そしてグレースの性格を表すために多くの物をコレクションした閉塞感を伝える映像にすること。そこに的確な音楽を重ねること……。ジャン=ピエールと話した流れで、彼にグレースの父親役で声優として参加してもらえないか打診したところ、それは頑なに断られました(笑)。でもその代わりに彼はドミニク・ピノンを紹介してくれ、最高の父親役が誕生したのです。
『かたつむりのメモワール』©2024 ARENAMEDIA PTY LTD, FILMFEST LIMITED AND SCREEN AUSTRALIA
Q:声優への演出について何かこだわりはありますか?
エリオット:いわゆる“アニメ声”は出さず、実写と同じようなナチュラルな話し方を心がけてもらいました。観る人の感情を揺さぶるうえで、そこは絶対に外せないこだわりです。
Q:映画監督になろうと思った理由を聞かせてください。
エリオット:子供の頃から絵を描いたり、何かを組み立てたりするのが大好きでした。「アーティストになりたい」という子供に対し、反対する親も多いはずですが、我が家は違ったのです。父の仕事はアクロバットも披露する道化師で、彼は私の叔父と一緒に世界ツアーにも出ていました。1960年代には日本にも行ったはずですよ。そんな父ですから私の夢も支えてくれましたし、私が子供時代の1970年代は、今と違ってみんなが自由に夢を描いていたと思います。
Q:『かたつむりのメモワール』の成功によって、次回作の準備も急ピッチに進むのでは?
エリオット:私は現在53歳です。60代になれば、おそらく視力も衰え、記憶力も減退するでしょう。残りの人生で、直近の短編2本『ハーヴィー・クランペット』(03)、『アーニー・ビスケット』(15)に続く3部作完結の短編を1本、そして『メアリー&マックス』、『かたつむりのメモワール』に続く長編3作目が作れたら幸せです。ちょうど今、その長編の脚本を書き始めたところですが、これまでのように製作費集めに時間がかかるでしょう。そして『かたつむりのメモワール』の評価によって、さらに期待が高くなるわけで、そのプレッシャーとの闘いも待っています。そこを乗り越えれば、また満足のいく新作を届けられるはずです。映画というものは完成した後も不完全な部分が見つかり修正したくなることもあるのですが、そうした過去の欠点も受け入れ、それこそカタツムリのように時間をかけながらも前の方向へ進んでいくことが大切なのではないかと肝に銘じています。
『かたつむりのメモワール』を今すぐ予約する↓
監督/脚本:アダム・エリオット
メルボルンを拠点にインディペンデントで活動するオーストラリア人のアニメーター、ビジュアル・アーティスト。家族や親族を題材にした短編『アンクル』(1996)、『カズン』(1998)、『ブラザー』(1999)で国内外のアニメーション賞を数多く受賞し、ジェフリー・ラッシュがナレーションを担当した『ハーヴィー・クランペット』(2004)でアカデミー賞®短編アニメーション賞ほか32に及ぶ映画賞を受賞し、一躍世界的な注目を集める。初長編作品『メアリー&マックス』(2009)はサンダンス映画祭でプレミア上映され、アヌシー国際アニメーション映画祭ではクリスタル賞(最高賞)を受賞。劇場上映後も配信で人気を博し、現在ブロードウェイ・ミュージカルとヨーロッパで6つの舞台化が進行している。これまでのキャリアで1000以上の映画祭に招待され100以上の賞を受賞。パリ、日本、カナダ、メキシコ、スペイン、シンガポールで彼の“クレヨグラフィー(クレイアニメーションのバイオグラフィー)”の展覧会や回顧展が多数開催されている。
取材・文:斉藤博昭
1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。クリティックス・チョイス・アワードに投票する同協会(CCA)会員。
『かたつむりのメモワール』
6月27日(金)TOHOシネマズ シャンテ、ヒューマントラスト渋谷、シネマート新宿ほか全国公開
配給:トランスフォーマー
©2024 ARENAMEDIA PTY LTD, FILMFEST LIMITED AND SCREEN AUSTRALIA